柴田とは滑りの相性がよく「今日は合ってないなあという日でも合ってる」(photo 写真映像部・馬場岳人)
柴田とは滑りの相性がよく「今日は合ってないなあという日でも合ってる」(photo 写真映像部・馬場岳人)

――「BEYOND」は来年3月まで、全国を巡る。実はさらにもう一つのプロジェクトも同時に進めているという。

浅田:浅田真央のスケートリンクをつくる話を進めています。子どもたちに良い環境で滑ってもらう場所を作りたいですし、選手が練習の成果をお披露目する場も少ないので、自分が冠になる試合も作りたいです。子どもたちが安心しておいしい料理を食べられるようなレストランを施設内に作ったりもしたい。スケートリンクが、たくさんの人が集まって、笑顔があふれるような場所になればいいな、と思っています。そして、いずれ五輪に出られるような選手が出てくれれば、これほどうれしいことはないです。

――未来のコンセプトを話しながら「でも」と言って続ける。

「いろいろなことを乗り越えてきたメンバーなので、団結したときのパワーがすごいです」(photo 写真映像部・馬場岳人)
「いろいろなことを乗り越えてきたメンバーなので、団結したときのパワーがすごいです」(photo 写真映像部・馬場岳人)

■BEYONDに全集中

浅田:やっぱりいまは、BEYONDに全集中です。スケート人生を悔いなく滑りきって終われるように、覚悟を持って、すべてをスケートに捧げたいという気持ちです。いずれショーが終わった後、メンバーのみんなに「あのショーに出られてよかったな」という気持ちが、人生の片隅にでも残ってくれればうれしいですし、お客さまに対しても同じです。人生でたった一回見たアイスショーだったとしても、それがどこかの記憶に残ってパワーになってくれたらいいなと思っています。

――自然と仲間への思いを語った。

浅田:選手時代、私は孤独でした。一人で練習して、誰にも会わず家に帰って、一人で向き合って。つらくてもやるしかないという感じで、自分の気持ちというものがありませんでした。母が亡くなった時は気持ちをシャットダウンして、滑るだけ。ロボットみたいな生活でした。でも、今はリンクに来るとメンバーやスタッフの皆さんがいて、一緒につくり上げている感じがあります。一人ではできないということがむしろ楽しくて、自分の心が開いているのを感じるんです。

 選手の時はルーティンの積み重ねが試合で出るので、日々何も起きてほしくないと思っていました。でも今は毎日いろいろなことが起きて、それをみんなで乗り越えることが、ショーのよさにつながっていく。それが「BEYOND」なんです。ここには、幸せがすごくあります。

――自分が受け取った幸せを、もっと多くの人に届けたい──。「ありがとう」を届けてきた旅は、幸せを届ける旅へと進化した。選手時代と変わらぬ覚悟を胸に、高みを目指し続ける。(ライター・野口美恵)


AERA 2022年11月14日号

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