■ペア演技での挑戦

――自身初となるペア演技にも挑戦している。現役時代に高橋成美と組んでいた柴田嶺(35)をメンバーに迎え、リフトやスロージャンプなどに挑戦する。2人の掛け合いで、「シェヘラザード」では妖艶さ、「白鳥の湖」では可憐さ、と深い表現も追求した。

メンバーの中で、浅田と同じ30代は柴田のみ。「30代、40代は体力勝負なので、お互い頑張ろうねと役割分担しています」(photo 写真映像部・馬場岳人)
メンバーの中で、浅田と同じ30代は柴田のみ。「30代、40代は体力勝負なので、お互い頑張ろうねと役割分担しています」(photo 写真映像部・馬場岳人)

浅田:最初から滑りの相性が良かったので、お互いを信頼していますし、嶺くんが上手にサポートしてくれます。やはりシングルとは違う難しさはありますね。1日2公演で連日となると限界を超えてやっているので、普段は息が合う場面でも合わなかったり。少しでも集中力が切れると大きな怪我につながるので、とにかく信頼と集中が大切です。

――現役時代は「理想を高く、自分に厳しく」というタイプだったという。今回、ショー未経験の若手も含むメンバーを牽引していくなかで、変化もあった。

浅田:私にとっての理想はあります。でも、それぞれのスケーターが精一杯頑張って、その人のスピードに合わせて成長していっているので、自分の理想を押し付けないように、と。信じて待ってそれで成長してくれたら私もうれしいです。私が常に全力で頑張る姿を見せていれば、みんながついてきてくれるんだ、と思えるようになりました。目指すところは一緒。リンクの上では「全力」という気持ちがあればいいと思っています。

現役時代にペアを経験した柴田が浅田をサポートする(photo 写真映像部・馬場岳人)
現役時代にペアを経験した柴田が浅田をサポートする(photo 写真映像部・馬場岳人)

■リーダーとしての責任

――リンクを降りれば、対等な目線で意見を出し合ったり、一緒に食事に行ったり、チームワークを大切にする。理想的なリーダーですね、と言うと破顔した。

浅田:全然です(笑)。素晴らしいスタッフの方々に支えられて、一緒に作り上げている感じです。自分以外の役割の部分は、スタッフを信頼して、スケーターたちも信用して。私は責任を持ってちゃんとお客さまに届けられるものに仕上げるという緊張感を持ちつつ、みんなに支えられているんです。

――そうして出来上がった「BEYOND」は、初演の滋賀公演から反響を呼んだ。幕間の休憩もなく10人のスケーターが90分間ノンストップで滑り抜けるショーは、圧巻だった。

浅田:このショーに参加するまでも、そしてショーを作り上げる日々でも、みんながいろいろな限界を感じてあきらめそうなことがあったり、苦しんだりしてきました。初演のフィナーレ「愛の夢」で一人一人の心からの笑顔を見た時に、私、涙があふれてきちゃって「ああ、やってよかったな、私についてきてくれてありがとう」って思ったんです。

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