長年の願いがかない、加藤版の「知床旅情」も世に出ることになった。
「皆さんが知っている加藤登紀子は、『知床旅情』のヒットでできあがったともいえますね」
◆「知床旅情」との運命的な出会い
レコード大賞、紅白出場、「知床旅情」のミリオンセラーと、順風満帆であったが、心は晴れなかった。シャンソンを歌いたくて歌手になったのに歌謡曲を歌っている。自分はどうなりたいのだろう……。
自分らしさを表現する居場所として始めたのが、今ではライフワークともいえる、中村さんとの縁もつないだ「ほろ酔いコンサート」だ。今年で49回目を迎える。22時という夜遅い時間のスタートであるため、しらふじゃおもしろくないと、CMソングを歌っていた「清酒大関」が観客に振る舞われた。
コロナ禍のなかでも加藤さんの歩みは止まることはなかった。20年6月にBunkamura オーチャードホール(東京・渋谷)で大規模なコンサートを開催し、音楽業界から注目された。
「緊急事態宣言の解除後すぐで、それまでに感染対策をはじめ、あらゆる準備をしっかりしてきたんです。もし、ダメでも配信でコンサートをしようと考えていました」
この2年で、花をテーマにした3枚組CD「花物語」もリリースし、中村さんに関する本以外にも『登紀子自伝 人生四幕目への前奏曲』も出版した。
「私はスカッと新しいことをするのが好き。新しいページをめくるようにね」
「生きることはアップデートすること」を信条にしている加藤さんならではの言葉だ。
最後に加藤さんは、中村さんが好きだった言葉、「一隅を照らす」の話をしてくれた。
「もし花の種が石の上に落ちたら、石の上で根を張り、花を咲かせるしかない。水がない石の上だから生きていけないではないでしょ。だから私はこれからも小さな花かもしれないけど、たくさんの花を咲かせていきたいですね」
(本誌・鮎川哲也)
※週刊朝日 2021年11月12日号