海面上昇はどうなる…(撮影/写真部・馬場岳人)
海面上昇はどうなる…(撮影/写真部・馬場岳人)

 海面が1.01メートル上昇すると、東京はどうなるのか。

 江東区や江戸川区、墨田区など東京東部には、海面より低い「海抜ゼロメートル地帯」が広がる。小倉主幹研究員は言う。

「海抜ゼロメートル地帯の存在する東京湾の海岸堤防は、2~3メートル以上の高潮を想定して整備が進められています。従って、現在の海岸堤防や水門などの施設がそのまま維持されるとすれば、1.01メートルの海面上昇だけでゼロメートル地帯が水没する可能性は低いと考えられます」

 しかし、と小倉主幹研究員。

「強い台風が接近して高潮が発生するような状況を考えた場合、海面が温暖化で上昇していたことにより、従来ならば防げたはずの浸水被害を防げなくなる恐れがあります」

海面上昇加速の可能性

 予想される最悪のシナリオとして、海面上昇が2メートルに迫る可能性も、「低いがゼロではない」と述べる。

「温暖化がある程度進行すると南極の氷床を安定に維持できなくなり、氷床が急速に縮小して海面上昇が加速される可能性も指摘されています。そのような氷床の急速な縮小がいつ始まり、海面上昇をどの程度加速させるか、現時点では良く理解できていないからです。海面上昇が2メートルになった場合、首都圏が高潮の被害を受ける可能性は、さらに高まります」(小倉主幹研究員)

コロナ禍も進む東京の建設ラッシュ(撮影/写真部・馬場岳人)
コロナ禍も進む東京の建設ラッシュ(撮影/写真部・馬場岳人)

 対策は、まったなしだ。

「温室効果ガスの排出を抑制し、海面水位の観測を続けるとともに、 最新で最善の予測技術で将来予測を繰り返し行い、その成果を海岸の施設整備に生かすことが大事です」(同)

 先の中北教授は、温室効果ガスの排出を抑制する「緩和」と、被害を防止する「適応」の両輪で取り組むことが大切と説く。

「世界各国で緩和は進んでいますが、それでも2050年頃には産業革命前より気温が2度上昇すると考えられます。治水対策を行い、洪水や台風による複合災害が起きた時に対応できる街にしておくなど、対策を進めることが重要です」

(編集部・野村昌二)

AERA 2021年11月29日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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