中北教授は気温が2度上昇した場合と4度上昇した場合における、それぞれの総雨量や洪水発生頻度などを試算している。
「まず、気温が2度上がると総雨量は1.1倍になり、河川に流れる量は1.2倍、洪水の発生は2倍増えます。4度上昇すると総雨量は1.3倍、河川に流れる量は1.4倍、洪水の発生は4倍になります」
実際、人口や首都機能が集中する東京に大雨が降るとどうなるのか。最も心配されているのが、東京の東部を南北に貫く荒川の氾濫だ。
荒川上流の埼玉県秩父地方などで3日間に600ミリ超の雨が降った場合、やがて下流の東京都北区の堤防が切れ、大量の濁流が荒川区や台東区など下町に流れ込む。最悪の場合、54万人が孤立し、死者は約4千人、霞が関は機能不全に陥る。
23区のうち17区で浸水
「東京沈没」をもたらしかねない災害は、まだある。台風がもたらす高潮だ。
先の中北教授によれば、台風も温暖化と無縁ではないという。
「気温が上がることで大気は安定し、台風が発生しにくくなり日本列島への到来回数は減ります。ただし、安定した大気に打ち勝って生まれるため、いったん発生すると、中心気圧が920ヘクトパスカル以下の強力なスーパー台風になる危険性が強まります」
しかも、海面温度が高い場所が東にずれるため、台風の発生場所も東にずれ東日本を襲う台風が増えると言う。
「スーパー台風なので猛烈な風が吹き、風水害の危険性も高まります。気圧が低いため、ストローで吸うと水が吸い上げられるように海面が吸い上げられ潮位が上昇し、高潮の心配も高くなります」(中北教授)
都が2018年に初めて公表した「高潮浸水想定区域図」では、東京に過去最大規模の台風が上陸し高潮が発生すると千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区など都内23区のうち17区で浸水が発生する。浸水想定区域内の人口は約395万人(昼間)。想定浸水深は最大約10メートルで、排水が完了するまで1週間以上かかる。
荒川氾濫も、高潮被害も、SFの世界の話ではない。日本沈没や関東沈没はともかく、東京沈没といえるほどの凄まじいダメージは実際にあり得るのだ。
防げたはずの浸水被害
温暖化による海面上昇も深刻だ。IPCCは8月、化石燃料を大量に使い続けた場合、2100年までに海面は最大で1.01メートル上昇する恐れがあると指摘した。
海面上昇の理由を、国立環境研究所地球システム領域の小倉知夫主幹研究員は、こう述べる。
「主な原因は、陸上の氷河や氷床が気温の上昇により融解して海へ流れ込み、海水の質量を増加させること、および海水の体積が熱膨張するためです」