
■「失敗、大失敗」
展示作品36点のうち、ほぼ半数が動物や昆虫の写真。
「取材中は自然のなかをずーっとさまよっていますから、出合えば撮る、という感じですね。行くと、こういうものに出合っちゃうんですよ。だから、無欲がいい(笑)」
例えば、雪原で丸々と太ったネズミを捕らえたキツネ。
「目の前で、キツネが鼻で獲物のにおいを確認して、雪の中に飛び込むようにネズミをつかまえていた。毛並みがいいし、狩りがうまいんでしょう。下手くそなやつは、もうよぼよぼで、細くなっちゃう。如実に野生の厳しさが表れる。ひとつのドラマですね」
謎の赤い海の写真について聞くと、「失敗、大失敗」と明かす。
「ついつい、フィルムを間違えて入れちゃった」
大判カメラにネガフィルムを装填する際、裏表を逆に入れてしまうと、こんなふうに赤く写るという。
「だから、現実の風景じゃないんですよ。でも、なんか面白いな、と思って。これを最初に見せて、何が始まるんだろうと、そわそわした感じを出す。さらによく分からないものを織り交ぜた。これは何だろう、という感じを見せたかった」
えたいの知れない爬虫類のうろこのような緑の写真は、苔という。
「探してみると、場所によっては、足元にいっぱいあります。ちょっとグロテスクな原始的な姿。一つひとつが細胞みたいにも見える」

■「風景だけじゃない、ということです」
ピラミッドは南米グアテマラで撮影したマヤ文明の遺跡。それは人間の痕跡の象徴でもあるという。
「巨大な遺跡の周囲にはうっそうとしたジャングルが広がっていて、不思議な世界でしたね」
そのとなりには鹿児島県・屋久島で写した巨大な屋久杉の切り株の写真が展示される。びっしりと苔に覆われた切り株から何本もの若木が生えている。
「伐採されたのはおそらく、江戸時代。そこから長い時間をかけて新しい命が育っていく」
「生々流転」というタイトルは、もともと仏教の用語という。
「生きているものは、めぐっていく。それを、地球そのもの、という感覚でこれからは見つめていきたい。多種多様な生物をもっと追いかけていきたい。風景だけじゃない、ということです」
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】福田健太郎写真展「生々流転」
竹内敏信記念館・TAギャラリー 12月1日~12月22日