「日本資本主義の父」として知られる渋沢栄一の生涯は糸や布と縁が深い。そのゆかりの地を歩くと、衣との関わりを通じて渋沢の温故知新の思想が見えてくる。AERA 2021年12月13日号では、渋沢栄一の功績を「ゆかりの地」の関係者らに取材した。
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NHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」の主人公で、2024年度発行予定の新1万円札の顔でもある渋沢栄一(1840~1931)が注目を集めている。その足跡をたどろうと、まずは故郷の埼玉県深谷市を訪ねた。
渋沢家は養蚕のほか、藍染めの原料となる「藍玉」づくりも営んでいた。埼玉県北部は今も剣道着などに使われる織物「武州正藍染(ぶしゅうしょうあいぞめ)」の産地で、深谷周辺の藍玉が染めの原料となった。大河ドラマでの若き栄一も、藍の着物を着ていることが多い。
渋沢家の元住宅「中の家(なかんち)」は、豪農らしくどっしりとしたたたずまい。家の裏手にある淵沿いには栄一の時代、藍畑が広がっていたという。
近くにある渋沢栄一記念館では、栄一が生産者を大関、関脇、小結などにランキングした「武州自慢鑑(かがみ)藍玉力競(ちからくらべ)」が展示されている。栄一は10代から、藍葉の買い付けなどに商才を発揮。「力競」も「来年は良い藍玉を作って大関に」と、生産者のモチベーションを高めるために考案したという。
大河ドラマには、栄一が家族と藍玉を作るシーンもあった。
「実際の藍染めを知る身としては、あの場面から作業の大変さをうかがい知ることができました」
と話すのは、市内にある「武州自慢鑑 藍染カフェ」の運営企業アーキテクトの高倉香織さん。カフェにある藍玉をかがせてもらうと、確かに独特の匂いが鼻をつく。栄一たちが藍玉を作っていた場所には、匂いがもうもうと立ち込めていただろう。
■カフェで藍染めの体験
カフェでは、来店者がバンダナなどの藍染めを体験できる。染液から引き上げた布は最初鮮やかな緑で、空気に触れて次第に藍に変わる。高倉さんは言う。
「においや色の変化は、作業して初めて分かるもの。体験を通じて大河ドラマも違った楽しみ方ができると思います」