「そりゃ異質でしたよ。大人の男しかいない中に、学生服を着た中学生が1人でふらっとやってきて、夜まで対戦台に張り付いているんですから」
そう話すのは、梅原が格闘ゲームの師匠と仰ぐオゴウ(46)だ。「スーパーストリートファイターIIX」の強豪プレーヤーとして数々の大会で優勝しているオゴウだが、梅原とは「忘れられない一戦」があると言う。
「30先(先に30勝したほうが勝ちとなるルール)で対戦したことがあって、そのとき俺は絶対負けない自信があった。案の定23対19ぐらいまでは勝ち越していたんだけど、そこで“分析が終わった”んでしょうね。全く攻撃が通らなくなって、27対30で逆転勝ちされました。ウメちゃんは、戦い方に信念があるんです。負けていても戦法の軸がぶれない。戦いの中で、自分の弱点をあぶり出しているんでしょう。14歳足らずの少年がそんな戦い方をしていることが、信じらんなかった」
数千、数万の戦いを潜(くぐ)り抜けた少年は、恐るべき強さを手にしていた。ゲームセンターで286連勝という前人未到の記録を打ち立てると、1998年10月に開催された「ストリートファイターZERO3 全国大会」で優勝。同年11月にサンフランシスコで行われた世界大会でも勝利し、梅原は17歳にして世界王者の称号を手に入れる。
だが、世界一になっても周囲の反応は無に等しかった。「正直がっかりした」と梅原は話す。
「ある意味、自分の将来を代償にしながらゲームをやってきて、世界一になっても何も人生が変わらないなら、この先どうすればいいんだという思いがあった。そこで、ふと我に返ったんです。このままだと俺の人生、やばくないかって」
(文・澤田憲)
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