約2千点のアートデータを管理。水彩画、油絵、ペン画など、作家の技法や作風に合わせて個性が生かせるプロダクトに落とし込んでいる。作品は、ギャラリーやショップ、ECサイトなどから購入可能(写真=横関一浩)
約2千点のアートデータを管理。水彩画、油絵、ペン画など、作家の技法や作風に合わせて個性が生かせるプロダクトに落とし込んでいる。作品は、ギャラリーやショップ、ECサイトなどから購入可能(写真=横関一浩)

ダウン症や知的障害などいろんな子がいますが、2人は誰に対しても対等で、たまにけんかすることもありました。でもそれでいいんです。慣れない学生さんがボランティアにくると必要以上に『守ってあげなきゃ』と構えてしまう。『2人をお手本にして』とよく話していました」

 だが、中学校に入った途端に世界が変わった。

「おい、お前“スペ”じゃねぇの(笑)」

 スペとは、自閉スペクトラム症の略だ。崇弥いわく「流行語のように皆使っていた」。無自覚な差別に2人はショックを受けた。文化祭や部活の大会があると母は翔太を連れて見学にきたが、それを見た先輩から「お前の兄ちゃんのあれ何?」と笑われたこともあった。翔太は歩くときに時々体が硬直してしまう。それを馬鹿(ばか)にされたのだ。ふざけるなよ。激しい怒りが湧いたが、何も言えなかった。家族に障害者がいることで、友人がいじめを受けるのを目の当たりにしていたからだ。

「僕たちは外では兄のことを隠すようになりました。自分たちの身を守ろうとしたんです。言葉にはしないけれど兄は傷ついたと思います。ドン、ドンと無言で叩(たた)いてくるようになって、僕たちは別々の部屋で暮らすようになりました」(文登)

 その後、社会人になった翔太は、平日はグループホームで暮らし始める。一方、文登と崇弥は、中学から続けていた卓球の腕前を上げるため、県北にある強豪校に進学。寮で暮らしながら、インターハイ出場を目指し卓球漬けの毎日を過ごした。

 距離が離れたことで、兄弟の仲は時とともに修復されていった。だが、社会から兄に向けられる視線の冷たさ、その違和感が拭えたわけではない。

■障害者は「かわいそう」 レッテル貼りに違和感

 崇弥は、高校卒業後に東北芸術工科大学の企画構想学科に進学。その卒業制作で、今まで社会に感じてきた疑問をぶつけた。

「東京駅の花壇に花を植えるのが生きがいのホームレス。濁った川で楽しそうに遊ぶインドの子どもたち。そして自閉症でこだわりの多いうちの兄。そうした人々の生活風景を撮影した映像を10パターンぐらい展示しました。兄を含め“社会的弱者”と呼ばれる人たちが『かわいそう』とレッテルを貼られることにずっと違和感があった。『本人は本当にそう思ってるの?』って」

「常識展」と名付けたこの作品は学科長賞を受賞。企画の面白さに目覚めた崇弥は、大学卒業後、ゼミの担当教授でもあった放送作家の小山薫堂が代表を務める会社に入り、ブランディングやコンテンツ企画などのノウハウを実地で学んでいく。

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