翔太(左)は18歳のときから平日は通所の作業所に通っている。最近描いたコンテ画を見て驚く崇弥(中央)と文登(右)。「翔太さんいい感じじゃん! 素敵な作品だよ!」(崇弥)(写真=横関一浩)
翔太(左)は18歳のときから平日は通所の作業所に通っている。最近描いたコンテ画を見て驚く崇弥(中央)と文登(右)。「翔太さんいい感じじゃん! 素敵な作品だよ!」(崇弥)(写真=横関一浩)

「イタリアのブランドですか?」と間違われるほど洗練されたデザインと質の高いアイテムは、女性を中心に高い支持を獲得。21年には日本橋三越本店に、ルイ・ヴィトンやブルガリと並んでポップアップストアを出店した。また、従来のアール・ブリュット(障害のある人々による芸術表現)の枠組みを超えた活動が評価され、今年6月には経済産業省主催の「日本スタートアップ大賞2022」の審査委員会特別賞にも選ばれた。

 新進気鋭のベンチャー企業の経営者。そう言うとギラギラした印象があるが、崇弥も文登も威圧的な空気がまるでない。親しみやすい笑顔と話し方は“気の良いあんちゃん”といった感じだ。その明るさは障害について語るときも変わらない。

「これ、小林覚(さとる)という作家の作品なんですけど、彼は字と字をつなげて書くことに強烈なこだわりがあるんです。この中には実はスピッツの『夏の魔物』の歌詞が隠されてるんですよ。それからこっちの八重樫季良(やえがしきよし)という作家は、建築物の図面を描く感覚で絵を描いています。形にも本人なりの意味があって、この四角は何って聞くと『窓!』、この丸は『便所!』って言うんです」(崇弥)

「『障害のある人々を差別するな!』って声高に叫ぶ前に、まずはこんなにかっこよくて面白い作品があることを多くの人に知ってもらいたい。そこから作家本人に関心をもってもらうことで、障害に対する偏見を変えていきたいんです」(文登)

■自閉症の兄と仲良し 謎の歌で遊んだ少年時代

障害者という“人物”は一人もいない。ヘラルボニーを貫く思想は、幼い頃から2人が感じてきたことでもある。

 昔から仲が良くていつも兄弟3人で遊んでいた。母の妙子は翔太に伸び伸びと育ってもらいたいと願い、小学校は弟たちと同じ通常学級に通わせた。放課後には3人で学童に行き遊ぶのが日課だった。

「鬼ごっこをやるとき、翔太さんは鬼は絶対やらなくて『まてー!』って言いながら逃げるんです。それを僕らが追いかける(笑)。あと雨が降った日は、『ででりだどろ』って謎の歌を歌いながら3人で窓に絵を描いたりしてました」(崇弥)

 週末は、母に連れられて障害福祉団体のレクリエーションに参加するのが楽しみだった。岩手県盛岡市で放課後等デイサービスなどの支援を行うのびっこ寮育センターの鏡雅子は、海やスキー場で遊び回る文登と崇弥の姿を覚えている。

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