■安全保障政策の論議で欠落しているもの

――先に野添さんも触れられましたが、辺野古新基地建設に反対する「オール沖縄」勢力を築いたのは保守政治家の翁長知事でした。

野添 歴史的にも、50年代の島ぐるみ闘争、キャラウェイ旋風の際の保守の分裂、少女暴行事件の際の県民大会への参加など、保守も米国や日本に対決する姿勢をときに示してきました。そこには保守側にも基本的には「割り切る」一方で「割り切れない」部分があったからだと言えます。翁長知事の場合は、小泉政権以降の日本政治の変化、沖縄への無理解に対して、強く反発し、姿勢を変えていったと見ています。そういう意味では、日本政府や米国政府の態度次第では保守側が反旗を翻すのも「必然」だと思います。

――日本の安全保障政策において、沖縄の重要性が高まっています。日本の政策関係者の議論で欠落しているものは何だと感じていますか。

野添 日本での政策論議で足りないのは、沖縄の戦略的重要性が高まっているからこそ、沖縄の民意、あるいは政治的・社会的安定が重要になっていることだと思います。沖縄はただの島ではなく、そこに人々が生活しているという理解があるのかしばしば疑問に思います。戦略的重要性は、単に基地があるからという軍事的側面や地政学的に重要だからとかではなく、もっと政治・社会・経済といった側面からも見るべきであると思います。また、戦後日本の安全保障が沖縄への基地負担の上に成り立ってきたという歴史的視点も不可欠だと思います。中国の軍事的脅威ばかり重視する結果、「何(誰)を守るのか」という視点がまったく欠けていると思います。

――沖縄の歴代知事の姿を通して思うこと、伝えたかったことは。

野添 あえていえば、沖縄県知事は、沖縄県全体の代表として、引き続き、生活者の視点から問題解決にとりくんでほしいと思いますが、正直なところ、県政にこれ以上何かを求めることは酷だと思います。稲嶺恵一知事が「沖縄県知事の仕事の7割以上が基地問題」というほど、県知事としては手に負えないほどの問題を基地の集中のために抱えています。むしろ、歴代の沖縄県知事の苦闘を通して、日本政府、日本本土側が関心を高め、沖縄への基地の集中という日米安保が抱える構造的問題の見直しに取り組むべきだと思います。

(聞き手=編集部・渡辺豪)

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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