5年、10年と取材していくなかで語られる“男性の本音”

 自分の実績が評価されずにポストに就けないことに苦しむ男性も少なくありません。バブル崩壊を機に始まった新卒採用減が、2000年代前半ごろからリストラへと進行し、さらに法律に抵触しないよう、巧妙にリストラに追い込んでいくケースが増えていきます。同期は出世したのに自分は左遷、出向、転籍という憂き目に遭ったと嘆く人もいました。

 2015年に刊行した『男性漂流 男たちは何におびえているか』の中でも紹介しましたが、「長年勤めた会社からいろんな手を使って退職に追い込まれたら、会社を恨んでしまうから、あえて感謝して別れるために、先に自分から会社を辞めたんだ」と話された方のお話には胸を打たれましたね。

――本書の中では、普段聞くことのない悲痛な本音が吐露されています。

 皆さん、1回会っただけでは本音を明かしてくれないんです。最初は「大丈夫ですよ」と明るくお話されていても、会う回数を何度も重ねて、5年、10年と月日が流れていく中で「やっぱりつらいんです」という本音を打ち明けてくださいます。

 もちろん「大丈夫」とおっしゃった時の表情や身振りなどノンバーバル(非言語)の部分を観察し、取材者として「本心ではないな」とは思いますが、臆測で対象者の心情を書くことはできない。だから、「眉間にシワがよった」「頬がピクピク動いている」といった観察記録を書き留めておくわけです。初めてお会いしてから20年経って、「あの時、本当はつらかったんです」と本音を話してくれた方も少なくありません。

 弱音を吐かない、出世しなければいけない、妻子を養わなければならない。そんな旧態依然とした「男らしさ」に縛られているがゆえに、誰にも悩みを打ち明けられずに自分をここまで追い込んでしまうのではないかと思うと……。男性がすごく心配という気持ちは、今も昔も変わりません。

出世圧力に追い詰められ自信をなくしていく

――なぜ多くの男性が「出世しなければならない」と感じてしまうのでしょうか。

 旧態依然とした「男らしさ」のジェンダー規範に沿おうとすると、男性はどうしても出世して社会的評価を得なければならなくなりますよね。また、人間には人から認められたいという承認欲求があるとされています。男性の場合は、社会から高く評価されたいという承認欲求と、自分は「男らしさ」を具現化するための勝負に勝ったんだという自負が結びつきやすい。出世は、まさに「男らしさ」を認めてもらう究極の象徴なのです。

 ただ、最初に申し上げましたように、ポスト削減は昔から始まっているし、多くの人は給料も上がらないし、人件費削減がどんどん進んでいるので一握りの人しか出世できません。「男らしさ」を実現するのがかなり難しい状況の中で、出世圧力に追い詰められる男性が増えているのです。

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