「生きづらい」とこぼす日本人男性が増えている。『男が心配』(PHP新書)の著者で、20年以上にわたり、男性の生きづらさを取材、研究してきた近畿大学の奥田祥子教授は「依然として『男らしさ』に縛られている人は多い。20年前は少しは笑いに変えられるような希望があったが、いまはまったく笑えない深刻な状況になっている」――。
20年たってやっと「男が心配」と言えるようになった
――なぜ「男性の生きづらさ」を研究するようになったのですか。
大学院修了後に新聞社に入社し、30歳代になって、30~50歳代のサラリーマン男性を主な読者とする週刊誌に配属されたのですが、そこで一般的なサラリーマン男性の中には「男らしさ」を実現できずに苦しんでいる人がたくさんいることに気がつきました。ポスト削減が始まっていた20年前にも、出世できないという仕事の悩みや、ずっと仕事一筋でやってきたために家庭にも居場所がないと嘆く声はすでにあったんですね。
私は女性が極めて少ない時代に新聞記者としてキャリアをスタートして、警察や政治家といった権力に毅然とした態度で対峙(たいじ)して弱音を吐かない先輩たちに憧れていましたから、強い存在と思い込んでいた男性が仕事や家庭の悩みで弱り果てていることに激しく心を揺さぶられたのです。
しかも、男性の生きづらさは経済動向や雇用情勢の悪化によって起きている問題ですから、看過されている社会の問題です。にもかかわらず、男性記者は同姓の男性のつらさを取り上げたくないのか、手を挙げる人はいない。それで私がやるべきなんじゃないかと考えたのです。
新聞社での仕事とは別に個人活動として取材を始め、その後研究を再開して大学教員となった今まで、週末を使って全国を回ってインタビュー調査を行い、夜から朝にかけて調査データを分析、執筆するといった生活を続けてきました。取材者総数は男性だけでも約1000人に上ります。このうち500人を超える男性が一度で終わることのない継続インタビューで、最も長い方で20年余り追い続けています。
――『男が心配』という本のタイトルはインパクトがありますね。
今でこそ『男が心配』というタイトルの本を出させていただいていますが、取材を始めた当初は「心配」という言い方ができない状態だったんですよ。
女性が男性の生きづらさを追うことに対して、男性からは「なんでお前に分かるんだ」というお叱りを受けますし、女性からは「今、女性の差別撤廃が必要なのに女性のあなたがなんで男に同情するの?」と言われる。最近になってようやく、男女ともに共感を持ってくださる方が増えて、時代が変わってきたなと感じています。