AERA 2022年9月19日号より
AERA 2022年9月19日号より

「幼いころは習い事を掛け持ちし、中学受験もさせてもらった。でも、僕は学び続けることができないのではないか」

 と不安が膨らんだ。「大学進学のために塾に通いたい」とは言い出せなかったという。幸い、その後、数回の休業や時短営業を経て、居酒屋は営業を再開したが、友人たちの間では「親ガチャやからしかたないなあ」といった会話が、軽いノリで交わされる。悲壮感というよりは、諦めや開き直りといった空気が漂う。濱田さんは、

「だれも機会を奪われず、チャンスがつかめる環境をつくろう」

 と昨夏、無料のオンライン塾の運営と使わなくなった参考書などを集めて必要な人に届ける団体「Get CHANCE」を結成した。全国の同世代にSNSなどで呼びかけ、メンバーは現在43人。大半が高校生だ。

■必要なサービスは無償

 貧困は身近なもので、だれもが陥ってもおかしくないという現状を打開するには、どうすればいいのだろうか。

 著書に『どうせ社会は変えられないなんてだれが言った?』などがある慶應義塾大学の井手英策教授(財政社会学)は、こう提案する。

「中間層が本当にしんどくて子どもをあきらめると、経済が回らなくなる。教育だけでなく、医療、介護などみんなが必要とするサービスを無償化しよう」

 教育費だけ無償化すると、子どもがいない世帯は恩恵がゼロで受益感がないからだという。

「子どもが2人いて世帯年収が400万円でも安心して暮らしていける社会になれば、無理して勉強させる必要もなくなる。生き方の選択肢も広がる」

 教育ジャーナリストのおおたとしまささんは「無償化に賛成」としたうえで、こう指摘する。

「学校を無償化しても塾が残る。東大も慶應もどちらも学費ゼロならば、選択肢としては増えるが、結局進学できるのは、塾に通って対策ができた子たち。大学のランク、ネームバリューがその後の収入に影響を与える構造がある限り、格差は残ってしまう」

 さらに、「現時点で、中間層の学力が以前より低下していることを示すデータを私は見たことがない」と前置きしてから、

「どんなに学力格差を小さくしても、上位とされる進学先のイスから埋まっていく現状は変わらない。それよりも、その差がその人の尊厳と人生に影響を与えない社会をつくるべきです。学校の成績がその人の一生を決めてしまうわけではないことを、子どもたちに伝えていくことが重要でしょう」

(編集部・古田真梨子)

AERA 2022年9月19日号より抜粋

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古田真梨子

古田真梨子

AERA記者。朝日新聞社入社後、福島→横浜→東京社会部→週刊朝日編集部を経て現職。 途中、休職して南インド・ベンガル―ルに渡り、家族とともに3年半を過ごしました。 京都出身。中高保健体育教員免許。2児の子育て中。

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