延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー (photo by K.KURIGAMI)
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 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。映画「ギャング・カルテット世紀の怪盗アンサンブル」について。

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「ねずみ小僧次郎吉」「怪盗ルパン」、小泉今日子主演の「怪盗ルビイ」と古今東西、怪盗ものは子供たちのヒーローだった。彼らは大金持ちを狙い、庶民への施(ほどこ)しを忘れない義賊だった。今回その中で北欧の義賊のストーリーを知った。

 スパイ映画「裏切りのサーカス」がヴェネツィア国際映画祭で絶賛されたトーマス・アルフレッドソン監督の最新作が「ギャング・カルテット世紀の怪盗アンサンブル」。

 切れ味鋭いひりひりした「裏切りのサーカス」から一転、夏至祭りの幻想的な白夜のもと、美しい絵本を一ページずつめくるような贅沢(ぜいたく)さを味わえる作品である。登場する善人や悪人の、これまた優雅でとぼけた所作に心地よい脱力感を覚えた。

 金庫破りなのにドキドキしない。なぜハラハラしないのだろう?と思いながら映画を観ると、作品の主題が「現代社会へのアンチテーゼ」だと気づいた。アルフレッドソン監督は登場人物にスマホを使わせない。

「だって、スマホのやりとりを映したって面白くないだろう!」と監督が笑った。「それよりアナログ。アナログのコミュニケーションの方が世の中の仕組みがわかる」

 無駄なセリフがないのも特徴的だった。「サイレント映画と同じだね。僕が頼るのはセリフや音ではない。観客の想像力だから」

 原案はスウェーデンの人気コメディ映画シリーズ「イェンソン一味」。監督自身もこのコメディを見て育ったという。「一味は幼馴染み。チームワークはピアノの和音。まとまって音を奏でる。スウェーデンでは誰もが知っているストーリーを映像化し、力を合わせればこんな物語が起こり得ると示したかった」

 怪盗たちが狙うのはハート形の緑の石。その石が王冠に嵌(は)め込まれれば君主制が復活し、民主主義の危機になる。少女の奏でる音楽に感動したの涙が結晶したという謂(いわ)れの石は高齢者施設の金庫に保管されていた。宝物が高齢者施設に隠されているというのも何やら暗示的だった。

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