ヨーロッパではラジオが愛されている。老いも若きも耳を傾け、お気に入りの曲をリクエストし、ディスクジョッキーはリスナーに友達のように語りかける。みんな夢中だから、曲がオンエアされている間がチャンスとばかりにいとも優雅に金庫破りが敢行される。
「これは家族向けの優しさと正義の犯罪映画だ」とアルフレッドソン監督。
そこかしこにユーモアも。怪盗一味のリーダー、イェンソン(通称シッカン)は危うく倉庫ごと爆破されそうになる。鼻をつまんで飛び込むのがマヨネーズの詰まったドラム缶。息を止めて危うく難を逃れるのだが、うわぁ。僕は思わず声を上げてしまった。
「あれはラブリーなシーンだね」と監督は大笑い。「実際はマヨネーズではなくボディローションを使ったんだ。衣装を三つ用意したけど撮影は一発でOKだった。子供の夢っていうのかな、子供って、ケチャップやマヨネーズのプールで泳ぐとか、そんなことをいつも考えているものなんだ!」
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2022年9月16日号