僧侶になる場合、弟子入りさせてくれる「師僧」を探す必要がある。仏教塾の卒業生だと、専門課程で指導を受けた寺院の住職が師僧を引き受けてくれることもあり、これまで約570人が僧侶の資格を取った。
2003年に卒業した永楽達信さん(82)もその一人だ。元は信濃毎日新聞の記者だったが、「社会正義のためとはいえ、自分の仕事が誰かの人生を狂わせたこともあった。定年後はお坊さんとして人の話を聞き、世の中のために生きたい」と決意。63歳で入塾し、専門課程で縁ができた住職のもとで修行を積み、今は仏教塾の事務局が置かれている新宿瑠璃光院(同前)の副住職をしている。
ところで、一般社会からお寺に入る人は、まだ珍しいのだろうか。仏教界の専門誌「月刊住職」の編集長で、自身も住職の矢澤澄道(ちょうどう)氏によると、意外にも、全国約6万人の住職のうちの2割は寺院の生まれでない、いわゆる「在家出身」だという。
「婿入り先のお寺を継ぐ場合もあれば、病気や災害を機に、俗世に虚無を感じて仏門に入る場合もある。人との接触が激減したコロナ下においては、近所のお寺の住職に話を聞いてもらったり悩みを相談したりして、仏教に関心を持つようになった人もいるでしょう」
さらに興味深いことに、活気のある寺は在家出身の住職が運営しているケースが少なくないそうだ。
「マーケティングの手法やインターネットでの情報発信を通じて檀家を何百倍にも増やしたり、法話を聞いてもらうきっかけづくりに境内にサウナや馬術場を設置したり、発想が柔軟なんです。住職兼マッサージ師、住職兼シェフなど掛け持ちで働く人や、お寺でサッカー教室や子ども食堂を開く人もいる。周りからは『あの人お坊さんだったの?』と驚かれるでしょうね。住職の在り方はそれくらい自由。社会で身につけたあらゆるキャリアや特技が生かせる、第2、第3、第4、第5の人生にぴったりの職場だと思います」
日本には約7万7千の寺院があり、その数はコンビニより多い。ご縁に恵まれ、条件が合えば、お寺は身近な“再就職先”になるかも?(本誌・大谷百合絵)
※週刊朝日 2022年9月9日号