いつも寺の活動を手伝ってくれる人たちと、10年弱行われていなかった供養の儀式「施餓鬼会(せがきえ)」の再開を相談
いつも寺の活動を手伝ってくれる人たちと、10年弱行われていなかった供養の儀式「施餓鬼会(せがきえ)」の再開を相談

 地域のトラブルへの対処が求められることもあるが、簡単にはくじけない精神力や対人能力は会社員時代に培った。

「暴力団から料金を回収する仕事をしたこともありますから。当時と比べたらストレスなんてない。毎日楽しいです」

 安國寺には、檀家は一軒もいない。本山の妙心寺からも金銭的な支援はないため、お堂や鐘楼などの修繕は寺のために蓄えられてきた地域のお金を使い、「かかるのは食費ぐらい」な生活費は年金でまかなっている。一方で、寺を大切に思う地元の人たちがときどき掃除に来たり、米や総菜を差し入れたりしてくれて、助かっているという。

「他の住職に話すと驚かれますよ。『うちの檀家に言うとかなきゃ』って(笑)。ここでは暮らしと寺が結びついているんです。人の役に立っている実感があって、僧侶は天職。みなさんに嫌われない限り、終生をこのお寺で全うしたいです」

 檜垣さんの運命を変えた「第二の人生プロジェクト」は、2013年のスタート以降、17人の僧侶や住職を輩出し、寺での活動をかなえた。取り組みの背景には、全国に約3300ある妙心寺派の寺院のおよそ3割が、後継者不足や地方の過疎化で住職不在に陥っている、深刻な問題がある。プロジェクトを担当する同派宗門活性化推進局の久司宗浩顧問はこう語る。

「年金で生活できる経済的に自立した人に空き寺に入ってほしい、“都合の良い話”な面もあるんです。これまで問い合わせを頂いた約700人のうち200人は、儲(もう)からないとわかって辞退しました。でもお金はあげられないけれど、生きがいは与えられます」

 実際に僧侶を目指す人は、社会や家庭から逃げたい“世捨て志願者”ではなく、「会社員として一生懸命働いて評価されてきたが、もう一段、人格を磨きたい」という意欲的な人が多いという。

 妙心寺派で僧侶になるには、計52日以上の研修会を3年かけて受講するか、1年間寺に住み込んで修行する。介護で家を空けられないなどの事情がない限り、日常生活がそのまま修行になる後者が理想だ。だが年配者の場合、若い人と一緒にハードなスケジュールをこなし、厳しい暑さや寒さに耐えるのは体力的に難しいこともある。

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