そこで、前出の檜垣さんが修行した龍門寺が、60代以上専門の道場として開かれている。一般向けの寺とちがって生活費がかかり、個室つきで年間100万円だ。
久司顧問によると、シニア世代の出家で課題となり得るのは「思い込みの強さ」だという。
「若い和尚さんに注意されると、つい感情的になってしまう方がいます。自分だけが正しいと思う精神構造が根付いていると、変えるのは大変。いくつになっても素直でいられるかが試されます」
一方で、“第二の人生僧侶”に教えられることも大いにある。
「われわれは『お坊様』なんて呼ばれて、世間知らずが許されてしまうところがある。外からの目が入っていろいろ質問されることで、日ごろ当たり前に使ってきた言葉が難解な業界用語だったと初めて気づくんです。これでは一般の方には通じないんだなと反省しました。年に1人の受け入れでもいいから、このプロジェクトは末永く続けたいです」
とはいえ、「いきなりお寺を訪ねて僧侶を目指すのはハードルが高い」「仏教がどんなものなのか基本のキから学びたい」という人もいるだろう。
そんな仏教初心者に学びの場を提供している団体が、「東京国際仏教塾」(東京都渋谷区)だ。1988年の発足以降、約2千人が入塾し、その年代は20代から80代まで幅広い。履修課程は、4~10月に開講される「仏教入門課程」と、11~翌3月の「宗旨専門課程」の二つがある。
入門課程では、レポート提出などの通信教育を主体に、2泊3日の修行研修が2回行われ、仏教の基礎を学ぶ。入門課程を修めた人が進める専門課程は、天台、真言、浄土、真宗、臨済、曹洞、日蓮の伝統七宗派のコースに分かれ、選んだ宗派の歴史や教義、読経や仏前での作法を学ぶ。学費は入門課程が約11万円、専門課程が14万円だ。
事務局長の洞口克巳さんは、「ここは仏教を学ぶ道筋を紹介する“入り口の場所”」と話す。
「1年で学べるのは初歩の初歩。卒業後は日常生活のなかで精進を続ける人も、近所のお寺の活動を手伝う人も、僧侶を目指す人もいます。いずれにしても大切なのは、お釈迦様の教えを自分で学び深めていく姿勢です」