
50分の授業は投資と消費の違いなど、基礎の基礎から。
「高校3年間に勉強する、趣味を見つける、恋愛をする……すべて自分の将来のための『投資』なのだと話します。そのうえで、退職金や年金だけに頼らず、老後を見据えたお金を自分で管理する必要性を説明します」
出張授業は「持ち出し」
出前授業をするためには教材作成やアナリストの人件費など、コストがかかる。講演料や口座開設などのリターンはあるのか問うと、マネックスの福島さんは「実費も含めて1円もいただいていません」と笑った。
運用会社も投資教育に力を入れる。農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)は今年3月末、教員向けSNSを運営するアローズと共同開発した投資教育用教材を無料でリリースした。内容は高校生に向けた自己投資のすすめ、金融投資との違い、考え方など。動画やスライドに加え、先生の説明文や生徒との想定Q&Aもある。この教材セットは約40校で使われる予定だ。NVICの旗艦ファンド「おおぶね」シリーズを運用する奥野一成(かずしげ)さんに聞いた。

「高校生にいきなり株や投資信託の専門的な話をしても意味がありません。これからの若者にとって大事だと思うのは投資家マインド。株式を持つことは、労働者ではなく資本家になること。大人も含めてその意味を知らない人が多すぎます」
金融教育は始まったばかりだが、質も量も学校の姿勢や個々の教員の熱意に大きく左右されているのが現状とわかった。一方、夏休みが明けると高校3年生の教室では半数近くが18歳の新成人を迎え、自分のお金にも責任を負う立場になる。常陸大宮高校教諭の横山さんのセリフを最後に記しておこう。
「誰でも、どの学校でも学べてこそ教育です」
(ジャーナリスト・大場宏明/編集部・中島晶子)
※AERA 2022年9月5日号より抜粋