しかし、2000年代以降になると、その数は一気に減少傾向を辿ります。近年はグラサンONの顔とOFFの顔を使い分ける、いわゆる「両刀」が主流になっている様子。EXILEのATSUSHIさんやGACKTさんなどがその類ですが、中には横山剣さんや綾小路翔さんのような、比較的「グラサンON」を徹底している絶滅危惧種もいらっしゃいます。

 ではなぜテレビから「グラサン族」が減ったのか。それはテレビというメディアが、より道徳的で模範的な存在になっていったことと関係があるのではないでしょうか。タモリさんや陽水さんの時代は、テレビ界も音楽界も、基本的にアウトローを象徴するものだったはず。各人様々な事情はあれど、「素顔は晒せない」、そんな後ろ暗さが、テレビや芸能に非日常感を添えていたように思います。

 化粧もそれに似ています。厚化粧が淘汰され、ナチュラル志向が正義になり、場違いなメイクは「行儀が悪い」「非常識だ」と断罪されていった歴史と、グラサン族の衰退は同じ文脈にある。ちなみに私の中のベスト・グラサン人は、フィギュアスケートの山田満知子コーチです。

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

週刊朝日  2022年9月2日号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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