5章は「源氏物語の世界」で、瀬戸内寂聴訳『源氏物語』の装幀画の原画と4078枚におよぶ寂聴源氏物語の全原稿(複製)が展示されている。積み上げられた原稿用紙の量に、準備5年、現代訳5年という月日の重さを感じることができる。
6章は「人縁という宝物」と題して幅広い交友関係が紹介され、川端康成や三島由紀夫らからの手紙もある。
最終の7章は寂聴さんそのものを表す「生きることは愛すること」と題されている。文化勲章の賞状と勲章などの顕彰の証しが飾られ、大きなスクリーンでは法話が映し出されている。
会場出口付近には、
「つらいときは、思いっきり泣けばいい 悲しみを我慢してはいけません。ただ、うんと泣いた後、ちょっと笑ってほしい。」
「結局、人は、人を愛するために、愛されるために、この世に送り出されたのだと最期に信じる。」
など、寂聴さんの言葉があしらわれた幟が八つ掲げられ、ここでは寂聴さんに話しかけられているようだ。
「追悼 瀬戸内寂聴展」は、あらゆるところに寂聴さんを感じ、一緒に鑑賞している気分になる。そして、寂聴さんの少し甲高い声が聞こえた気がする。
「ありがとう、またいらしてね」
(本誌・鮎川哲也)
※週刊朝日 2022年8月19・26日合併号