作家であり、僧侶でもあった瀬戸内寂聴さん。99年の人生は、波瀾万丈だが、濃密で豊かであった。そんな瀬戸内寂聴さんの作家と僧侶双方の素顔を感じられる展覧会が始まった。
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昨年11月に99歳で亡くなった瀬戸内寂聴さんをしのぶ「たくさんの愛を、ありがとう 追悼 瀬戸内寂聴展」が日本橋高島屋S.C.で始まった(8月22日まで開催)。
この展覧会は寂聴さんが残した言葉や交友関係、そして自筆原稿などをはじめ、瀬戸内寂聴にまつわるあらゆるものを、七つの章にわけて紹介している。
会場入り口には、「人は愛するために生れてきたのです。この世で誰かに出逢うことが『生きる』ということなんです」という寂聴さんの言葉とともに400冊を超える著作がずらりと並べられている。
まず1章「人生の原点」には、文学に憧れるようになった人形浄瑠璃と、小説『恋川』に登場する文楽人形2体などが展示してある。2章は「瀬戸内晴美の文学」。三谷佐知子のペンネームで応募・入選した「お母様の贈り物」が掲載された少女雑誌「ひまわり」などの展示がある。
この展示の中でも注目は3章「得度式」と4章「ようこそ寂庵へ」であろう。
「得度式」の展示室は黒い壁で囲まれ、ここが特別な場であることがわかる。中尊寺での得度式の模様が映像で流れ、挨拶文や手紙なども展示、得度式で剃髪した寂聴さんの髪もある。今も黒く艷やかで、性と静、そして生をそこに感じられる。
さて、4章は打って変わって明るく華やかで、笑顔の寂聴さんの世界が広がっている。テーマは「ようこそ寂庵へ」だ。
法話の映像が流れるなか、寂聴さんの手になる書、水墨画、さらに目を見張るのが2躯の木彫りの仏像である。小さいながらも精巧に彫られ凛とした佇まいがある。
他にも般若心経が刻まれた焼き物、小さな土仏、粘土で作った野菜と、寂聴さんのお手製アートの数々が並ぶ。
そしてここには京都・寂庵にある書斎が再現されている。寂聴さんの息遣いと原稿用紙に向かう姿が思い浮かび、寂聴さんが執筆しているような空気を伝える。