オードリー・タン/台湾のデジタル担当大臣。天才プログラマーとして、19歳で米シリコンバレーで起業。台湾の蔡英文政権において、35歳の史上最年少で行政院に入閣した
オードリー・タン/台湾のデジタル担当大臣。天才プログラマーとして、19歳で米シリコンバレーで起業。台湾の蔡英文政権において、35歳の史上最年少で行政院に入閣した
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 激動の時代だ。過去の価値観では通用しない。国の政策も、課題解決の仕方も、働き方も。従来の成功モデルは疑わなければならない。「変える人」はいま何を思い、行動しているのか──。AERA 2022年1月3日-1月10日合併号は、台湾のオードリー・タン デジタル担当大臣を紹介する。

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「ひびのあるところに、光は差し込む」──。台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タン(40)がインタビューや講演で、必ずといっていいほど口にするお気に入りの言葉だ。「私たちがそこに何かしらの問題があると思えた時こそが、その問題を解決するチャンスなのだ」と、いま問題や困難にぶつかっている人を励ましているように思える。

 コロナ禍での台湾は、民主的な防疫対策を取りながらも2年連続でGDPを成長させ(2020年は3.12%増、21年<予測>は6.09%増)、「防疫と経済成長は両立できるものなのか」と世界中を驚かせた。その立役者がオードリー・タンだ。

 オードリー自身、突出した才能で主流の教育体制に相いれず、幼い頃に“世界と絶交”した過去を持つ。子ども同士が成績競争で嫉妬し合うような環境で、小学2年生の時にはクラスメートから「お前が死ねば、僕が一番になれるのに」と言われたこともあった。深く傷つきながらも「これは子どもが悪いのではなく、教育構造の問題だ。自分は台湾の教育を改革する」と考え、後に教育改革に大きく貢献している。「ひびのあるところに、光は差し込む」は、そんなオードリーを体現する言葉だ。

■誰も犠牲にしない政治

 だが今の台湾社会があるのは、大きな問題が起きて“ひび”を見つけるたびに「政府だけに任せていられない」と市民たちが行動を起こし、光を差し込んできたからに他ならない。

 それまでは世界的なハッカーで「IT界の神」として知られていたオードリーが16年に入閣したのも、突然中国との貿易協定を結んだ当時の政府に対し、市民らが14年に抗議した大規模なデモ「ひまわり学生運動」での活躍がジャクリーン・ツァイ前大臣の目に留まり、政府のリバースメンター(若手が年長者に助言すること)に起用されたことがきっかけになっている。ジャクリーン前大臣は当時について、「『ひまわり学生運動』で私たちの世代は『次の世代の声を聞かなければならない』と思い知ったし、若者たちも『公共政策に参加したい』という思いを強めた」と語っている。

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