AERA 2022年1月3日-10日合併号より
AERA 2022年1月3日-10日合併号より

 リバースメンターとして政府に関わるようになったオードリーが真っ先に手をつけたのが「オープンガバメント(開かれた政府)」だった。オードリーは「SDGsの16番目のゴール『平和と公正をすべての人に』に相当し、世界中の人々が取り組んでいるテーマ」だと話し、後にデジタル大臣として入閣した際にも、自身に課した三つのミッションのうちの一つに据えている。「オープンガバメント」には(1)政府がデータを公開し、(2)データについての市民の意見を募集し、(3)それに政府が回答し、(4)最後に誰も取り残していないかどうかを確認する「インクルーシブ」という4段階がある。オードリーは断言する。

「人々が政策の制定に参加することができなければ、ほとんどの政策が少なからずSDGsにマイナスの影響を与えることになってしまいます。インクルーシブであろうとし、誰のことも犠牲にしないような政治を目指すのであれば、まず『オープンガバメント』以外に方法はないと言えるでしょう」

 実際のところ、コロナ禍で政府が管理することになった国内の医療用マスクの在庫から、政府組織や政策における男女の雇用機会均等まで、政府が関わるあらゆるデータがインターネット上で公開され、意見のある市民は選挙権の有無にかかわらず政府に伝え、回答をもらえるようになっている。現在は選挙権がなくても、将来は地球温暖化などで最も大きな影響を受けるであろう若者たちの意見までが政策に反映されるようになったのだ。この流れで市民たちの間に「社会は自分たちのもの」であり、「声を上げよう」という意識が格段に高まったように思う。

■高校生の意見に応える

 台湾では19年7月から、大型チェーン店のイートインでプラスチックストローの使用が禁止されているが、それは入閣前にオードリーが立ち上げに関わった政府のプラットフォーム「Join」に寄せられた16歳の高校生からの意見がきっかけだった。台湾のタピオカミルクティーは世界的に有名だが、そのためにプラスチックストローが大量消費され、環境に悪影響を与えているのはおかしいという高校生の意見は多くの市民から賛同を集め、政府が応えた形だ。

 オードリーが変えたのは市民だけではない。政府内の公務員たちの意識をもボトムアップで啓蒙していった。

次のページ