まず18.3キロ地点で、城西大の浜本栄太が前のめりになった。うつろな目で足元もふらつき、櫛部静二監督が声をかけても返事がない。単独走が長く続き、真っ向から吹きつける強烈な寒風に体力を奪われたようだ。「頭でも打ったらまずい」と危惧した櫛部監督は途中棄権を申し出た。浜本は低体温症と脱水症状にかかっており、救急車で病院に搬送された。
さらに悲劇は続く。中大・野脇勇志もゴールまであと1.5キロの地点でふらつくと、意識を失って倒れ込んだ。浜本と同じ低体温症と脱水症状が原因だった。
5区はマラソン選手育成目的で06年に20.9キロから23.4キロに延長されたが、この事件の4年後、17年から20.8キロに短縮された。
“山の神”がいるチームが有利になり、勝負を決める比重があまりにも大きいという理由に加え、低体温症など選手の体調面に影響を及ぼしやすい点も考慮された結果だった。
いずれにしても、途中棄権という痛ましい事態は、2度と起きてほしくないと願うばかりだ。(文・久保田龍雄)
●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。