■事例6(87歳男性・慢性呼吸不全)
認知症の妻、次女との3人暮らし。次女は介護に熱心で、父親の住み慣れた自宅での看取りを強く希望しているが、日中は仕事があり不在。ある日、所用で訪れた民生委員が患者の急変に気付き、緊急連絡を受けて往診。まさに「穏やかな最期」に近い状態だったが、次女の携帯電話がつながらない。認知症の妻は事態を全く理解していない。そこで堀ノ内病院に救急搬送し救命。1カ月後に退院したが、退院7日目に亡くなった。次女が看取りに専念するために退職した直後のことだった。
小堀医師は言う。
「私が救急車を要請したのは熱心に父の介護をしてきた次女が不在の間に父親を死なせたくなかったからでした。私が患者家族の状況を熟知している“かかりつけ医”だったからできた判断だったと思っています」
小堀医師は患者とその家族が望む最期の時間を実現する後押しをするのが自分の仕事と考えるようになったという。
「事例1で紹介したスマホを持って入院した男性についても、今はそれが本人の望んだ死に方だったと受け入れられるようになりました」
(本誌・鈴木裕也)
※週刊朝日 2022年1月7・14日合併号