Aさんがそうであったように「夫は私のためを思って言ってくれている」と思うことで、どれだけひどいことを言われてもなかなか離れられないことが多い。こうした場合、周囲がいくら心配しても被害者である本人が聞く耳を持たないこともある。
◆妻は「自分の持ち物」と認識
好きで結婚した相手なのに、なぜ苦しい目にあわせるのか。「カウンセラーが語るモラルハラスメント」などの著書があるカウンセラーの谷本惠美さんは、「モラハラをする夫は、妻を自分の“持ち物”だと認識している」と指摘する。
「モラハラをするのは、葛藤処理やストレス対処が未熟な人。普通なら、自分にとって大切な存在に対し、自分の心の問題をぶつけたりせず、大事に扱うものです。ですが心の処理が未熟な人は、自分の大事な存在を、まるで自分の所有物であるかのように、自分のために使ってしまう」(谷本さん)
未熟とはつまり、葛藤やストレスの処理が幼児期の状態でストップしていること。幼児が自分の非を認められず、「誰々が悪い」と責任転嫁してしまうことは、よくある。だがそこから成長せず、幼児期のままで精神状態が止まってしまうと、他人への責任転嫁が当たり前となり、相手へのいたわりが欠落した大人になってしまう。プライドが高く、自分が一番大事なので、相手を見下す態度がにじみ出やすく、結果「友達が少ない」という傾向もあるという。
「モラハラをするような人は、客観的認知能力が著しく欠けていると思われます。この世をごく単純に見ていて、正解が一つだと信じているのです」
と分析するのは、『妻のトリセツ』などの著書で知られる脳科学・AI研究者の黒川伊保子さん。客観的認知能力が欠けているとは、「自分と別の見方があるとは思いも寄らない」こと。そうなると自分が万能で偉いと思い込み、自分と価値観の違う相手を蔑む傾向にある。その場合、話し合いにならず、歩み寄ることが難しいという。