何かを決めるときには、Aさんの提案に対して、必ず「本当にそれでいいと思ってるの?」と疑問を投げかけてくる。そこで提案し直しても、夫が考えている内容と異なれば、決して良い返事を返さない。OKが出るのは、夫が考える内容と一致した時のみだ。その決定が良い結果をもたらせば、「僕がアドバイスしたおかげ」となり、うまくいかなければ「君の決定はいつもうまくいかないよね」とAさんのせいにする。
被害者からすれば、たとえ幼稚であろうと教育環境が起因していようと、正当な理由もなしに歪んだ矛先を向けられては、たまったものじゃない。
◆モラハラ攻撃によって人格を変えられた
その矛先が向かいやすいタイプはどんな人なのだろうか。意外なことに、モラハラ被害者は、もともとは自分をしっかり持った魅力的な人であることが多いという。「ターゲットをコントロールしたい」、「支配したい」という歪んだ“甘え”は、それが簡単に叶いそうもない相手にこそ向けられるのだ。
「被害者はもともと受け身だったのだろう」「被害者に選ばれやすいタイプがいるのだろう」と思われがちだが、決してそうではない。そう誤解されるほど、被害者のパーソナリティがモラハラ攻撃によって変えられてしまうだけなのだ。
たとえばAさんは、人格を否定する発言を浴び続けた結果、「自分が悪い」と思うようになり、元夫の言動を全て自分に関連づけて考えるようになった。自分がどうしたいか、どう感じるかということよりも、元夫が何を言ったらOKを出すか、不機嫌にならないかを始終考える。夫の機嫌が悪いのは、私が何もできないからだ。できない私が悪い。怒らせてしまった私に原因がある。私がちゃんとすれば、優しい夫に戻ってくれるーー。いつの間にか、自分の価値観や感覚、考えがなくなり、自分自身を責める思考ループに入っていたという。
相手への思いやりがある人ほど、加害者の言動に振り回され、いつしか自分を見失ってしまう。「モラハラ被害者になりやすい人」といった傾向はなく、誰もが被害者になる可能性があるのだ。
今、そうした矛先は、妻のみならず、夫側に向けられるケースも増えているという。次回は、妻から夫へのモラハラについて紹介しよう。(松岡かすみ)