元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんが食べたもち入り鍋焼きうどん

元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 リモート講演を目前にパソコンの電源が入らないトラブルに見舞われた稲垣さん。今回はその後日譚をお届けします。

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 前回、突然のパソコン不具合で焦った話を書いたら、案外多くの人から「大丈夫?」と心配頂いた。お騒がせしました。結論から言うと、パソコン本体でなく接続機器の問題と判明し、機器を買って一件落着。あーよかった!

 ……と言うべきところだが、どうも喜べない。

 そんな単純な結論を得るだけで、機械音痴の私は力を使い果たしてしまった。慣れぬ大型店へ行き、スタッフをつかまえパソコン本体を見せ懸命に苦境を説明してもあっちへ行けこっちへ行けと言われるだけ。で、結局「予約しないと相談もできぬ」と知る。あまりのことに一旦(いったん)は折れそうになったものの、なけなしの根性を総動員して「正常な接続機器となら繋(つな)がるかどうか確かめられないか」と涙目で交渉。何とか応じていただき「あ、繋がった!」とわかった時は、不可能と思われたミッションに成功した達成感でいっぱいに……。

 なーんて言ってる場合じゃないよ。

 私が消耗した原因は二つ。一つは、店員様が全員ロボットに見えたこと。何を聞いても回答は一種類。まさにデジタル。押しても引いてもムダ。それに従いこちらもデジタルに動くしかない虚(むな)しさよ。それは私が単にバカだからなのかもしれないけど、こちらの苦境に少しでも寄り添ってくれる会話があってもいいんじゃ? デジタル社会って要するにそういう社会なのか?

カッカと来た時は温かいものを食べるに限る。もち入り鍋焼きうどん。リアルな世界は優しいね(写真:本人提供)
カッカと来た時は温かいものを食べるに限る。もち入り鍋焼きうどん。リアルな世界は優しいね(写真:本人提供)

 そしてもっと恐ろしいのは、私は結局のところ、そのルールに従うしかなかったという事実だ。自分もロボットになってレール上を移動し、その先で「修理に数週間かかる」と通告されれば絶対新しいパソコンを買ったろう。それが万一、相談の余地をあえて狭くして諦めて購入させるという先方の「戦略」だったとしてもなすすべなし。何しろパソコンなしではたちまち仕事が消滅するのだ。

 依存とはかくも恐ろしき。言いなりが嫌なら依存を断ち切るしかない。最低でもプランBを持たねばならぬ。これは人生を乗っ取られぬための戦いと覚悟したところである。

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2022年1月31日号