佐野元春さん(撮影・アライテツヤ)
佐野元春さん(撮影・アライテツヤ)

 コロナ禍の2021年には、客席数を減らし、デビュー40周年コンサートを日本武道館と大阪城ホールで行った。そして今年は、大ヒットしたアルバム『SOMEDAY』、大滝詠一と杉真理と3人で制作した『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』がリリース40周年を迎えた。これらのアルバムの楽曲を今年のツアーではコヨーテバンドで演奏した。

「うれしかったです。なぜならば、かつての曲なのにノスタルジーを感じさせず、今の曲として演奏することができたからです。僕の過去のナンバー、そして当時のバンドへのリスペクトが、コヨーテバンドの演奏から感じられました」

 かつての曲と新しい曲が、同じステージで、今のバンドで演奏されても違和感はまったくない。楽曲に普遍性があるのだ。

「普遍性は楽曲にとってとても重要です。アーティストはだれもが普遍性ある作品をつくりたい。でも、それはとても難しい。普遍性は手に入れたくても、なかなか獲得できるものではないからです。常に正直に、一所懸命創作するしかありません。誠実に音楽と向き合っていると、ときどき、幸運にも普遍性を得ることができる。普遍性とは、リスナーが引き出してくれるものなのです」

 コロナ禍でも精力的な活動を行ってきた佐野に、今年3月、2021年度芸術選奨の文部科学大臣賞が授与された。

「いったいどんな賞なんだろう──。失礼ながら、この賞は自分がもらうことになって初めて知りました。とまどっていると、みんなが祝福してくれて。おかげで、やっと意義を理解しました。僕は賞に疎いんですよ。かつて『Sweet 1‌6』がレコード大賞優秀アルバム賞を受賞したときも、僕が知ったのは2年後でした。でも、文部科学大臣賞をもらって、省庁のような、いわゆる権威といえるなかにも僕の音楽を冷静に評価してくれる人がいる事実にびっくりしました。僕の音楽、僕のリスナーが多様になっている証しだと感じました。そう思うと、とてもうれしい出来事でしたね」

(ライター・神舘和典)

週刊朝日  2022年8月12日号

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