「僕に経験とスキルがあるなら、一枚を通して楽しめるコンセプトアルバムを作り続けたい。それが『Where Are You Now』で、前々作の『MANIJU』やその前の『BLOOD MOON』です。この3枚は、僕はコヨーテバンドとの3部作だと評価しています」
佐野にはルーツと言えるイギリスのロックバンドがある。ザ・フーだ。
「12歳のとき、僕は書店で音楽雑誌を立ち読みしていました。その雑誌のグラビアで、真っ赤なストラトキャスターを手に高くジャンプしているザ・フーのギタリスト、ピート・タウンゼントと出会いました。あのとき、僕のなかに雷が落ちた。ロックミュージックを強く意識した、僕の原点です。ザ・フーはワイルドで、同時にインテリジェンスがあります。そして、エレガントです。つまり、対立しそうな個性を共存させています」
ザ・フーは、60年代から70年代にかけてすぐれたコンセプトアルバムを作ってきた。佐野が今も赤いストラトキャスターを手にステージに上がるのは、ピート・タウンゼントへの思いがあるからだという。
「今作に収録されているポップロックで、テクノでもある『銀の月』は、ザ・フーへのリスペクトです。この曲のミュージックビデオでは、ベーシストがザ・フーのベーシストの衣装で演奏しています」
『Where Are You Now』は、厳しい時代に制作された。新型コロナウイルス感染拡大以前にソングライティングされたが、レコーディングはコロナ禍の真っ只中。世界中のエンターテインメントが大ダメージを受け、多くのアーティストはライヴの中止を余儀なくされた。ライヴ関係のスタッフは収入が途絶えた。そこで佐野が行ったのが「佐野元春40周年記念フィルムフェスティバル」だった。
「僕の過去の映像のアーカイブを再編集し、音も整えて毎月1作、半年間配信しました。ファンの皆さんからは好評で、収益をツアーミュージシャンやスタッフたちに分配することができました。僕もバンドもライヴスタッフも同じチームです。仲間です。ピンチのときには支え合います。なにかをできる誰かができることをします」