佐野元春さん(撮影・アライテツヤ)
佐野元春さん(撮影・アライテツヤ)
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 デビューして42年、THE COYOTE BANDを結成して17年になるシンガー・ソングライターでロックンローラーの佐野元春さん。今年7月、アルバム『Where Are You Now(今、何処)』をリリースした。佐野さんの音楽は激しい。それでいてインテリジェンスが感じられる。共存しづらい二つの個性を追い求める理由とは。

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「野性と知性。激しさと優しさ。希望と絶望。両極に感じられる個性や感情を僕の音楽は共存させています。人も社会も白黒明確ではありません。グレイもグラデーションもありますよね。僕たちは、そんな対立しそうな個性の間を揺らぎながら生きています。その真実を表現できるのが、アートです。だからこそ、豊かで美しい。その事実を多くの人に感じてもらいたい。それを僕は音楽で追い求めています」

 しかし、けっして簡単ではない。思いだけではなく、音楽で伝える技術が伴わなくてはいけないからだ。

「その技術を『Where Are You Now』でいよいよ手に入れたと感じています。このアルバムに収録した『さよならメランコリア』も『クロエ』も、あいまいな真実を表現できています。コヨーテバンドはいよいよ高みに到達しました。まだまだポテンシャルも感じられます。楽しみです」

 新作ではさらに強く意識していることがある。「アルバム一枚を通してメッセージを伝え、物語を描く」ということだ。

「今、音楽は配信が全盛の時代です。アルバムのなかの気に入った曲だけをダウンロードして聴けます。そのシステムを否定するつもりはありません。ただ、アルバムの概念、存在意義は揺らいでいます。僕は、1960年代、70年代のすぐれたコンセプトアルバムで育ってきました。ビートルズ、キンクス、ピンク・フロイドなど。彼らはコンセプトアルバムを作ろうという強い思いもスキルも持っていました」

『Where Are You Now』には20秒のオープニングナンバーがあり、58秒のエンディングナンバー「今、何処」で終わる。アルバム全体を通して強い物語性が感じられる。

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