一方、高梨さんはこうみる。
「2021年度に男女の合格率がフェアになったり逆転したりした国公立大のなかには、この間に女性差別が改善された大学もあるのではないか。私立大は私学助成金のカットを受けましたが、逃げて得した状態の大学もあるのではないでしょうか」
■多浪生は? 制度による新たな懸念も
女性と同様に差別的な扱いが指摘されていた「多浪生」はどうだろうか。不正発覚当時、文科省は過去6年間の受験者数と合格者数などを年齢別(18歳以下、19歳、20歳、21歳、22歳以上)でデータを公表していたが、2019年度以後は集計していない。その理由を文科省はこう説明する。
「2018年度で調査を終了し、その中でも男女別に関しては社会の関心が高く、国会等でも言及があったので、引き続き集計することになった。文科省は大学に対し、大学自らが男女別や年齢別の情報を積極的に公表するよう、19年度に事務連絡している」
多浪生に関しては「改善されているかは不明」と高梨さんは言う。
「入学者のデータしかありませんが、ある大学は、2019年まで3浪以上が8人いたのに、翌年からゼロになりました。実際にどのような選考が行われているかはわかりませんが、データをみる限り、多浪の受験生が受けにくい大学はあります」(高梨さん)
女性差別の問題について高梨さんは、入試を突破して医師になっても、その先で制度的な差別が生じないかを懸念しているという。その一つが、専門医認定で2018年度から始まった「シーリング制度」だ。これは、第三者機関である日本専門医機構が都道府県別に将来的に必要な医師数と養成数を基にシーリング(採用人数の上限)数を設置するもの。専門医の質の担保と、医師の地域偏在や診療科偏在を是正する目的で始まったものだ。
「病院へ就職する医師に人数制限が設けられたわけですから、当然そこでも審査が行われます。この時に、男女がフェアに審査されているかどうか、注目する必要があります。大学と病院は連携していますから、入試が公正になっても、次はシーリング制度によって差別する可能性が防げないのではないか」(高梨さん)
厚生労働省に、シーリング制度において男女差別を防ぐ対策があるのかを尋ねると、「診療科ごとに採用を決めるのは医療機関なので、その中で男女の比率が設けられているかは承知していない」としている。日本専門医機構でも、「専攻医(専門医になるために研修を受けている医師)を労働力として雇用する病院側の問題」で、採用における男女差について「介入する権限がない」と回答した。ただ「現代社会において出産および子育て支援というのは必要不可欠な問題」として「厚労省の医師の働き方改革には積極的に協力していく」という。
長時間労働が可能な男性を採用したいという考え方が根底にあるがゆえに生じていた医学部入試における男女差別。その先にある医師の労働環境改善が、差別解消には欠かせない。(AERA dot.編集部 岩下明日香)