佐藤:セッパ詰まったという感じがどうもないんですよ。たかが金じゃないか、と思ってしまう。なんだか滑稽になってくる。それで例の借金取りにはね、結局「この1万円を半分コしようじゃないですか。5千円、あなたにあげる。5千円でもあれば、奥さんもそうは怒らないんじゃないですか」っていったんです。「はあ……では、そういうことに」と彼がいったとき、私はしみじみ彼を気の毒に思いましたよ。ホント。抱きついてね、「ああ、吾がはらからよ……」といいたい気分でした。すべて人生勉強でした。人間勉強というか。この話は忘れません。その後あの借金取りはどうしているかしら。奥さんに叱られながら、元気でいるのかしらんと思います。

林:すごい話です。

佐藤:かと思うと、電話で散々毒づいた高利貸しのばあさんが、私が直木賞を受賞したニュースがテレビに流れたとたんに電話をかけてきて、「おめでとうございます! よかったですねェ!」とオン鶏のように威勢よく叫んだこともよく思い出します。これで貸した金の取りはぐれはなくなった、と安心したのでしょう。みんな一所懸命に生きているのだな、とそのときも思いました。それなりに。この「それなりに」というところが面白いんですよね。

林:そうですよね。話は変わりますが、先生のご日常を教えていただけませんか。ふだん何時に起きられるんですか。

佐藤:朝は9時です。8時ころ目が覚めて、1時間ぐらい考え事をして9時に起きる。早く起きたってすることないんだもの。

林:お散歩なさったりとかは?

佐藤:散歩って、コレという目的がないから嫌いなんですよ。歩きまわっても、いつ戻ればいいのか、それがわからない。際限なく歩いて、ヘトヘトになる。

林:よく、健康のために歩けって言いますけど。

佐藤:健康のためといわれることは、私はしないですね。じっと座ってます。

林:本を読まれたりは?

佐藤:この頃は読んでるうちに小さい字が見えなくなるんです。手紙なんか書いてても、書いてるうちに見えなくなる。しばらく休んでまた書き始めるんです。目が悪いと生活に活気がなくなりますね。

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