■車椅子での旅行は特別じゃない 

「海がすごく綺麗で、ニモがたくさんいたわよ。近いし時差もほとんど無いし、次はみんなで一緒に行かない?」

「ゆうは飛行機は無理だよ」

「そう?アメリカでは車椅子での旅行は、全然特別ではないわよ」

 ……確かに。その数年前に、80歳の祖母が車椅子をレンタルして、アメリカ西海岸に旅行した時のことを思い出しました。

 ――無理だと思い込んでいたけれど、身体も小さいし、何とかなるのかな。

 まずは航空会社に、首の座らない子どもの旅行の情報はないかと問い合わせることにしました。すると、チャイルドシートを装着できるような幅の広い座席があること、事前にリクエストをすれば、カウンターから搭乗口までスタッフが付くこと、イミグレーションも航空会社のスタッフと共に別ルートで入るため、待ち時間の負担が少ないこと、乗り慣れたバギーを搭乗口まで使用できることなど、勇気をもらえる情報をたくさん聞くことができました。

 さらにパスポート写真も、障害により視線を正面に向けることができない場合は、多少斜めでも通してもらえるとのことでした。

■旅行しやすい環境増えた

 私はこの時に、事前に調べることの大切さを知ったように思います。何を聞いても「へぇ~」「なるほど」の連続でしたが、とても楽しかったのを覚えています。当時は、まさかその2年後にハワイで生活をすることになるとは夢にも思いませんでしたが、勢いでハワイに行こうと思えたのも、すべてここからつながっているような気がしています。

 旅行先で動きやすくするための情報収集は、障害の有無に関わらず、たとえば、子連れで外出をする時にアクセス方法を調べたり、多少騒いでしまっても良いようなレストランを探したりすることと似ているように思います。場合によってはあらかじめ予約をしたり、混む時間を避けたり、「行きたかったけれど、子連れでは難しいかな」とあきらめることもあるのではないでしょうか?

 最近は車椅子でも旅行をしやすい環境が増えています。新幹線は事前に予約をすれば簡易ベッドを使用できる多目的室がありますし、高速道路のサービスエリアでは、駐車場の車椅子優先スペースがトイレの近くに設置されていたり、おむつ替えがしやすいように整備されていたりと利用しやすくなっているようです。堅苦しく考えず、スムーズに進む方法を軽く留めておくだけで、誰もが余裕を持って優しくなれる環境に近付いていくような気がします。

 障害のあるお子さんがいるために旅行をあきらめていたパパやママに、少しでも参考になれば幸いです。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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