日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介する本連載。車屋から開業資金70万円でラーメン屋に転身し大行列店を作った店主が愛する名店は、ハンバーガー店出身の店主が生姜(しょうが)醤油ラーメンで勝負をかけた名店だった。
【写真】ハンバーガー店出身の店主が作った「肉のうまみが凝縮されたラーメン」はこちら!
■引き算から足し算、そしてかけ算へ 変化し続けるラーメン
千葉県流山市。全国792市で5年連続1位の人口増加率を誇り、ここ15年で人口は5万人も増加している「住みたい街」として人気だ。そんな流山市にある「The Noodles & Saloon Kiriya」。東武アーバンパークライン(東武野田線)の初石駅から徒歩4分。住宅街の一角にありながら、連日驚くほどの行列を作る人気店である。
実家の車屋を営んでいた店主の青木成憲(よしのり)さんが一念発起して地元で2016年12月にオープン。43歳で修業歴なしという異例の転身だった。ラーメン作りが独学であるだけでなく、店の外装、内装もDIYで作った。開業資金はわずか70万円。前に入っていたテナントである和菓子屋の店名がデカデカと書かれたテントを残したままオープンしてしまった。オープンに合わせて準備したのは冷蔵庫とコンロのみ。ゆで麺機も買えず、コンロの上に鍋を置いて麺をゆでている。看板メニューは「kiri_Soba(潮)」。鶏と魚介のうまみを複合的に感じさせる見事な一杯だ。
今でこそ人気の「kiri_Soba」だが、提供当時は青木さんが考えるおいしさがなかなか客に理解されなかった。
「はじめはもっと味が薄かったと思います。無添加で無化調(化学調味料不使用)ではなかなかうまみが出ないものなんですね。もっとうまみを増すためにどんどん食材を足していくことで完成したのが『kiri_Soba』です。カエシ(タレ)には貝柱を使ってコハク酸を、スープには動物系を使ってイノシン酸を補い、複合的な味わいを作っていきました。いわばダシ感の爆発するような“足し算で作ったラーメン”なんです」(青木さん)
今後の青木さんの目標は、この「kiri_Soba」をさらにパワーアップさせることだ。現在は、寸胴(ずんどう)はシングル(1個)でそこにすべての食材を入れてスープを炊いている。今後はこれを動物系と魚介系で別々に炊いていきたいという。カエシの味の構成もシンプルにしていくつもりだ。