小規模塾になれば、もっと運要素は強くなります。6年生15人のうち、御三家合格率80%の子が3人いたとしても、不合格の20%に3人連続で入ってしまうことはあり得ます。受験するのは12歳の小学生なので、不確定要素は大きいですからね。ただ難関校狙いの場合、合格実績のある塾に生徒が集まる傾向は変わらないので、年度によってレベルが著しく変わることはないと思います。

 ひとつ注意してほしいのは、公表されている合格実績も“真水”ではないということ。大手塾は6年生の9月から開講する週末講座に週に1回通っていたら、合格実績としてカウントしています。これは大手ならどこもやっています。アントレで志望校別クラスを開設していない学校を目指す子は、自塾ではライバルが少ないので、他塾の週末講座に行かせることが稀にあります。アントレの内部生でも、その子が志望校に合格すれば、週末講座しか行っていない塾の合格実績にカウントされているわけです。

 もっと露骨なことをする塾もあります。たとえば、ある塾が開催する難関校「A」の志望校別模試でウチの生徒が高得点を取ったとします。すると、その塾の担当者からガンガン電話がかかってきて「国算理はよくできていますが、社会はまだ伸びます。A校に強い担当講師を近くの校舎に派遣しますので、個別指導を受けませんか」などと勧誘するのです。しかも「ほぼ無料」という条件で。合格実績にするには規定の受講時間が必要なので、短期集中の個別指導でその時間数を稼ぐ。そしてその子がA校に合格したら、個別指導をちょっと受けただけなのに、塾は堂々と合格実績として加算するのです。

――そうしたことをするのは、難関校に合格させれば塾講師のボーナスに反映されるなどのインセンティブがあるからですか。漫画の中でも、講師たちが同じようなセリフを言っていました。

 実はここもちょっと違っていて、講師のボーナスを合格実績で決めている塾はほとんどないと思います。私の知る限り、大手4大塾のなかでは1つだけです。塾講師の待遇がよくない、というセリフもありましたが、これは原資を人件費にどのくらい割くかという塾の方針によります。公開されている情報を見ればわかることですが、大手塾では人件費率より広告宣伝費率が高いところも多いです。施設費や事務費、データ管理費など塾運営に必要な経費は意外と多いので、広告宣伝費をかけるほど塾講師の手取りは少なくなります。

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