もうひとつ、子どもの「カンニング」も描かれていましたが、これも実際によくあります。毎年、何人もいます。6年生の夏に過去問を解き始めると、ほとんどの子がボロボロの点数なのは当たり前です。講師には常識でも、子どもはそんなことはわからない。特に、ずっと親の顔色を見てきた子は「合格点じゃないと志望校を受けさせてもらえないかも」と不安になり、答えを見てしまうのです。子どもに悪意はありません。漫画に描かれていたように「お母さんの喜ぶ顔がみたい」「この学校を受験したいから」という、子どもらしい理由なんです。でも親は「まさか不正までして点を取ろうとするなんて」と怒りや失望が大きい。だから親には「この時期のカンニングはよくあることで、子どもに悪気があるわけではない」ということを説明します。カンニングは珍しくないことを事前に保護者が知っていれば、より対処がしやすくなるので、漫画できちんと描いてくれて、われわれも助かります。
――個人的には、塾にとって難関校への合格実績は「運」の要素が強いと登場人物たちが語るシーンが意外でした。かなりシステマティックに毎年、難関校に何人入れると計算しながら運営しているのかなと思っていたのですが、やはり年度によって生徒のレベルにはバラつきがあるのですか?
合格実績の定義によって「運」の要素が強いかは異なります。第1志望の合格実績を上げたいだけなら、例えば、偏差値50の子が60の学校を受けることを止めて、安全校に誘導すればいい。そうしたら必然的に第1志望合格率は上がります。塾の実績だけのためにこれをやるのは疑問ですが、塾側がコントロールできる合格実績だとは言えます。
一方、御三家と言われる最難関校に何人合格者を出せるか、という点は確かに運次第のところはあります。アントレでいえば、ひばりが丘教室の6年生70人のうち、御三家を狙えるのは、毎年20人くらいです。その20人が4年生で入ってきてくれれば、合格レベルに引き上げるのに十分時間がかけられますが、入塾が遅い子もいるので、そのあたりは「運」になります。御三家を狙える子たちがいかに早く塾に入ってくれるかによって、合格率は変わります。