あと、大学受験の予備校講師のように1人で何百人という生徒を相手にできる仕事ではないので、1人が稼げる金額に限界があるという問題もあります。中学受験の場合は「面倒見がいい」というのが塾選びの重要なファクターになるので、1クラス20人~30人が限度です。だから塾側も簡単には規模を拡大できない。1人の講師が持つコマ数を増やしたとしても、クラスを増設すれば、必然的に人手不足になります。中小規模の塾ですぐに「満席」となるのは、それ以上は人手がかけられない状態であって、もうかりまくっているわけではないんです(笑)。だから塾講師が本当にもうけたいと思えば、ノウハウを持って独立して、新たな塾を開業するしかない。ただそうなると、元の塾は生徒ごと持っていかれる可能性があるので、大手塾は頻繁に人事異動をして教室を移らせているんです。その地域で名前が売れるような“カリスマ”を作らないことで、独立を阻止している側面があります。

――大学受験のような「カリスマ講師」が少ないのも、そういう事情があるのですね。最後に、柏原さんが中学受験業界にいて、今後は変えるべきだと考えている“常識”はありますか。

 一部大手塾で顕著ですが、偏差値の高い子は「開成」、女子なら「桜蔭」を目指すべきだという風潮です。成績がトップクラスの男子でも麻布の雰囲気が好きな子もいれば、武蔵に行きたい子もいます。でも、塾は御三家の中でも東大合格者トップである開成の実績がどうしても欲しいわけです。だから、開成を受験しないと“逃げた”という雰囲気が塾内で醸成されてしまう。塾としてはいくら不合格者が出ても、合格者が積みあがればいい。塾に勧められて開成を受験して、もし落ちても塾は責任を取ってくれるわけでもなく、本人は傷つくだけです。塾の都合だけで受験校を決めさせる風潮は改めていくべきだと思います。勉強が得意になって成績が上がれば、受けたい中学が受けられる、選択肢が増えるという喜びを子どもたちに感じてほしい。自分の努力で選択肢を広げられることが、中学受験をする大きな意味のひとつだと思うのです。(AERA dot.編集部・作田裕史)

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