彼女は今、朝の用事を済ませると夫の事務所に行って仕事を手伝っています。キッチンに作業台ができたことで料理も効率よくできるようになり、なかなか続かなかった夫のお弁当も毎日ちゃんと作っています。出かける前には、ごみ捨て、排水溝の掃除、洗濯、お弁当作り、洗い物……。ある日の投稿では「普通のお母さんができてる。自分に花丸」と自分に自信が持てた様子でした。
「以前は『中が見えるから玄関をあまり開けないで』と子どもたちに言っていました。本当にかわいそうなことをしたと思います。いまはドアを開けるストレスがありません」
家事がラクになったのはもちろん、開けっ放しにしても大丈夫、という軽い心が彼女を外へ向かわせたのだと思います。
うれしいことはまだありました。最終日は夫からサプライズ。「ママが頑張ったから、今日は焼き肉にしたよ」と、肉と野菜を買って駅まで迎えに来てくれたんです。家を片づけてから、夫は夜中に自分の食器を洗い、最後に入ったお風呂も洗う。以前よりやってくれることが増えました。
息子は自分の部屋を片づけるのはもちろん、お昼に使った食器を洗うようになりました。娘はイライラが減ったせいか、片づけが進むとともに勉強に集中するようになり、高校受験を控えた最後の期末テストで先生に太鼓判をもらいました。プリントや片割れの靴下を探す必要も、なくなりました。
彼女自身は、なりたかった自分になれたことで外ともっとつながれるようになりました。お呼ばれしてばかりだったママ友を家に招いたときは、急な日程の前倒しにも慌てず、娘の部屋のドアが少し開いていても気にせず楽しめました。娘の部屋がちゃんと片づいていたからです。
「あの時、一歩踏み出したことで、私の世界は変わりました。洗濯物が各部屋にきれいに帰っていくのが楽しい。キッチンにいても階段を登っているときも、玄関を開けた瞬間も楽しい。うまく表現できないけどいい感じです」
心に余裕ができたからでしょう。彼女は当たり前の幸せを感じ、周りと気持ちの交換が素直にできるようになりました。表情も以前より軽く、柔らかくなったように感じています。
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