16年5月27日、改正児童福祉法は参院本会議において全会一致で可決、成立。保護された子どもたちは「施設」ではなく、里親や養子といった「家庭」での養育を優先する方向へ大転換した。

「それが第三条『家庭養育優先原則』で、法律に順番まで書き込んだのです。第一は生まれた『(1)家庭』。それがかなわないなら『(2)家庭における養育環境と同様の養育環境』、すなわち、里親と特別養子縁組。それでもだめな場合は『(3)できる限り良好な家庭的環境』とした。この部分は別途通知で『明確にしてほしい』と局長に指示し、これは『小規模かつ地域分散型施設』ということになりました」

 さらに、「仏つくって魂入れず」にならぬよう、17年8月2日、改正児童福祉法の下での子ども社会的養育の根本哲学・ビジョンを、具体的な数値目標も書き込んで「新しい社会的養育ビジョン」として公表。その翌日、塩崎さんは厚労相を退任した。

「多少急いでいただき、何とか退任までに間に合いました」というビジョンには、里親委託率の目標がこう書かれている。

「3歳未満、おおむね5年以内に75%以上」「それ以外の就学前、おおむね7年以内に75%以上」「学童期以上、おおむね10年以内に50%以上」。だが、これには軋轢もあった。

「施設の方々は当初、かなり当惑されたようです。子どもが施設に来なくなり、経営的にも厳しくなる、と誤解されたのでしょう。地元の児童養護施設に説得された自民党の数多くの同僚議員が、議連会合でこの新しいビジョンへの慎重論を展開されたこともありました。しかし、新しいビジョンにおける今後の施設の役割は、家庭環境での養育が困難なケースの子どもたちを濃厚なケアにより、考え方を変え、里親に出せるようにすることです。高度な専門性を持つプロ集団として脱皮する必要があります。さらに、地域の家庭や里親に出向いて指導するなど、まったく新しい取り組みもある。この点を理解されている施設の方々は、前向きな発想への変化ととらえられていただけているようです」

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他の先進国に比べて低い里親委託率