官房長官や厚生労働相などを歴任した前衆院議員の塩崎恭久さん(71)は今春、地元愛媛県で里親として登録された。虐待などの理由で親と暮らせない子どもを育てる里親制度。なぜ、塩崎さんは里親になろうと思ったのか? 話を聞いてみると、児童相談所がいま、虐待された子どもたちのセーフティーネットとして十分に機能していない現実や、児童養護施設が子どもの未来の健全な養育の場になり得ていないことなど、厚労相を務めた塩崎さんだからこそ見えた、子どもの社会的養育の課題を語ってくれた。
* * *
「愛媛県養育里親名簿に、我々夫婦が正式に登録された。大切な愛媛の子ども達の養育のお手伝いをしっかりやって行きたい」
3月12日、塩崎さんはTwitterにこう投稿した。
塩崎さんは厚労行政に明るい政治家だが、政府の要職や大臣を歴任する超多忙な議員生活のなかで、自分自身の子育てや身の回りのことに費やせる時間がはかなり少なかっただろう。それでも70歳を超えてから「里親」にチャレンジするというのだから驚きだ。
実際、話を聞いてみると、これまで子育てに携わったのは、議員となる以前、1975年、日本銀行に入行して下関支店に赴任した2年間や米国大学院への留学中だけだという。
「でも私だけじゃなくて、ふつう、お父さんって、家にほとんどいないじゃないですか。まあ、子育ては妻に任せっきりってわけではなかったけど、忙しかったし。選挙運動にも相当の時間をとられてきた。だから、そういう意味では、初めて子育てに自ら正面から向き合うのかもしれない」
■「なぜ、票にもカネにもならないことを?」
しかし、里親として受け入れるのは虐待などで傷ついた心を持つ子どもである。不安はないのだろうか?
「不安? 私は自分が不安を感じていると考えたことはありません。私にとって里親が未知の世界だとしても、その不安とは比較にならないほど大きな不安を抱きながら毎日生きている子たちがたくさんいる。そんな境遇の子どもたちに比べたら、私の不安なんて、1万分の1以下じゃないでしょうか。まったく考慮にも値しないことです」