そう言うと、塩崎さんは、語気を強めた。
「子どもって、2歳くらいまでは、親にベターって甘えてくるじゃないですか。ところが、そのいちばん甘えたい相手から想像を絶する虐待を受ける。それによって子どもたちの精神は、取り返しがつかないほどゆがんでしまう。そんなことを考えたら、たとえ80歳になったって、大したことができなくても、そんな過酷な状況よりもマシな環境をつくってあげられるのではないか。そんな思いです」
妻、千枝子さんとともに里親になるわけだが、最初、この話を切り出したときの反応はどうだったのか?
「『里親、やってみようと思うんだけど、どう?』って言ったら、『いいんじゃない』って、即、返事があった。何か言うかなと思ってたけれど、全然なかったです」
■児童養護施設で目にした異様な光景
塩崎さんは2014年に厚労相に就任するずっと以前から全国各地の児童養護施設を訪問してきたという。
きっかけとなったのは、1998年ごろ、愛媛県宇和島市の児童養護施設「みどり寮」の理事長で、全国児童養護施設協議会の会長を務めていた谷松豊繁さんから「(塩崎さんの仲間の政策づくりの)グループで子どもたちの現状を聞いてくれないか」と、言われたことだった。
「その勉強会で、当時でも施設に入っている子どもの約5割が家庭での虐待が原因だ、って言われて、これはひどいじゃないか、と思った」
ところがその後、機会があるごとに児童養護施設を訪れるようになると、塩崎さんはそのあり方にも疑問を抱くようになっていく。ここは子どもにとって、健全な成長が育まれる場なのか? と。
「子どもたちが廊下に座って、みんな下向いて黙々と電子ゲームやっている異様な光景を見たときはショックを受けました。ふつうの家だったらゲームは1日に何時間までとか、一定のルールのもとで許されますよね。人手が足りず、注意も行き届かないため、自尊心も育ちません」