■現状変更を嫌う「大人の都合と論理」

 しかし、「新しい社会的養育ビジョン」実現への道のりは遠く険しい。19年度末、日本の「里親等委託率」は21.5%。それに対して、オーストラリア92.3、アメリカ81.3%、イギリス73.2%、香港57%と、大きな開きがある(諸外国は2010年前後の値)。

 さらに、国内の里親等委託率は自治体間の差も大きい。新潟市60.4%、福岡市52.5%、静岡市49.6%、さいたま市43.9%と、里親制度の普及にかなり力を入れている自治体がある一方、1割台の自治体名がずらりと並ぶ現実がある。

 ちなみに、養育里親になると、1人あたり毎月9万円の里親手当が支給されるほか、別途、生活費、教育費、医療費が出る。

「でも、それを知らない方がほとんどです。短期の『週末里親』があることも多くの方はご存じではない。なので、そういうことを夜8時台のゴールデンタイムにテレビコマーシャルでどんどん流すのは有効ではないか、と大臣時代から言い続けています」

 遅々として増えない里親や特別養子縁組の背景には、子どもの社会的養育問題に関わる施設や自治体などが現状変更を嫌う「大人の都合と論理」がある。

「日本は、保護される子どもの数が他の先進国に比べ、異常に少ないのです。一度は保護されても、また家庭に戻され、亡くなるケース、そのまま虐待が子どもが大きくなるまで続くケースなど、人知れず不幸なケースが数多くあるはずです。私のように、できる範囲内で里親になろう、という方々がもっと出てくると、多くの子どもたちがもっと救われるのではないでしょうか。私も年齢相応に多少でも役に立てれば、という気持ちです」

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)