きたお・まさひろ/北尾企画事務所代表。電通の広告クリエイターとして多数のヒットCMを生む。MBA取得、VC勤務を経て独立(photo Schoo提供
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きたお・まさひろ/北尾企画事務所代表。電通の広告クリエイターとして多数のヒットCMを生む。MBA取得、VC勤務を経て独立(photo Schoo提供 )

 一つの会社で一つの仕事をまっとうすればいい時代は終わった。変化の激しい時代に、必要となるスキルを求め、働きながら常にアップデートする人が増えている。大人の”リスキリング”に今注目が集まる。AERA 2022年3月21日号は「リスキリング」特集。

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 名刺に書かれた肩書は、クリエーティブ・ディレクター。任天堂やビズリーチなど、名だたる企業のCMを手がけてきた北尾昌大さん(44)だが、40歳を目前に、クリエイターの肩書を捨てる決断をした。

 このままでは、やりたい仕事ができない。向かった先はイギリス。MBA(経営学修士)を取得することを決めた。

 第一線で働きながら、なぜ学ぼうとしたのか──。

 2000年に新卒で電通に入社し、2年目から任天堂のCM制作を一手に任された。その後子会社に転籍すると、任天堂の仕事を続けつつクリエイティブのスキルを広告以外に拡張することに取り組んだ。マンガ原作の映画脚本化、お菓子の企画、株主総会用の企業映像……。

「当時は意識していなかったけれど、広告制作は商品やサービスと世の中の間に入って、魅力や伝えたいことを通訳する仕事です。そのスキルがほかのクリエイティブにも役立ちました」

■クリエイター×MBA

 本社に戻った後も、クリエイターとして成果を上げ確固たる地位を築いたが、一方で徐々に「クリエイティブ・コンプレックス」を抱くようになった。

「クリエイティブの部署にいる自分に話が来るのはCMをつくることが決まった後です。でも、本当はどうサービスを成長させるかの議論から関わりたい。クリエイターであることを足かせに感じるようになりました」

 そこで、選んだのがMBA取得。だが、学ぶ過程で驚きの経験をする。

「オリエンテーションで、経営学も経済学も人事論も、様々な教授がクリエイティビティーという言葉を使っていた。『あらゆるものがコモディティー化(一般化)してAIも普及するなかで、ビジネスに最も大事なことのひとつはクリエイティブだろう』と」

 学んだことで、自分はクリエイティブを武器にビジネスをやればいいと気づくことができた。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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