“苔”を育てるプロセスを通して、yPadの使い方も教えてくれるMoss man(イラスト:寄藤文平)
“苔”を育てるプロセスを通して、yPadの使い方も教えてくれるMoss man(イラスト:寄藤文平)

 忙しさがステイタスであり、寝てないことが自慢だった時代ははるか昔。にもかかわらず、いまだにどこかで休むことや残業しないことへの罪悪感がある。そんな現代を生きる我々にとって、Moss manたちの生き方はとても自由に映るが、同時に無意味にも見える。

「彼らはのほほんとしているように見えますが、それぞれ哲学者なんです。生きる意味とか自分の目標とか、そういう考え方そのものを疑ってるんですね。生まれたときから苔と向き合って「世界はなぜこのようにあるのか」とか「自分とは何か」みたいなことを問われつづけていますから、悩みのデフォルトが釈迦なんです。これは、自分の仕事場の若いスタッフと話している時に感じることですね」

 釈迦が説いた“諸行無常”を踏まえた上で、「いかに生きるか」という命題を、Moss manたちはすごくシンプルに考えてるのだという。

「育てた苔に社会的に意味があるのか、価値があるのか、というふうに考えがちですけど、本当に今、社会ってあるんでしょうか。少なくとも、Moss manにとっては苔を育てることがそのまま社会なんですよね。だんだん何を言ってるのかわからなくなってきましたけど、とりあえず、そういう手帳の世界の住人をイメージしてみることで、yPadの新しい定義も定まっていきました」

Moss manの貴重な原画(イラスト:寄藤文平)
Moss manの貴重な原画(イラスト:寄藤文平)

“仕事の管理”ではなく“人生の管理”だと考えると、yPadの使い方がどんどん広がっていくように思える。

「話をまとめるとすれば、忙しさを乗り越えるのためでなく、それぞれの時間を淡々と観察するためのツール、というのが新しいyPadの定義になるんだと思います。この一冊の手帳がどんな風に役に立つのかわからないですけど、自分の“苔”を見つけたり、苔のための時間を整えるお手伝いはできますよ、っていう。そんな気分です」

『yPad moss』をパッと開くと、見開きに日付や時間の刻みがある。そこには自分のスケジュールを書き込むのが普通だが、Moss manの気分になってその刻みを眺めていると、何をどう書いても、何に使ってもいいような気分になってくる。

「あれこれ大きな話をしましたけど、9割9分はこれまでと同じyPadですからね(笑)。とはいえ、何かつくる時って、そういう思索が必要なんです。今回、想像しているうちにちょっとしたyPadワールドが頭の中に仕上がりました。Moss族とは違う原始民とか、ロボットとかもいます。そうですね、もし来年も新しく作れるとしたら、テーマカラーはブルーにして、水の世界のIndigo manを描きたいな」

(取材・文/浅野裕見子)

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