「彼らはMoss manといって、最新のテクノロジーにも通じているけど、同時に原始的な生活をしています。現代人を象徴するキャラクターとは何かと考えたとき、“スマホを持った原始人”がいいなあと思ったんです。これは僕の着想ではなくて、サイゾーを創刊した小林弘人さんと、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授の柳瀬博一さんの対談を本にまとめたとき(『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』2015年、晶文社)、柳瀬さんが『スマホを持った原始人ってタイトルどうかな』っておっしゃっていたのがすごく印象に残っていたんです。そこから来ています」
突如出てきた“スマホを持った原始人”という言葉に、驚きとともにどこかハッとさせられるものを感じる。寄藤さんは続ける。
「スマホを持つようになって、僕らは情報空間の中で生理的な欲求に直感的に答えを求めるようになった。あ、いい感じ。あ、これ見たい。その直後にはもう操作してる。『考える』プロセスをすっとばして、刺激に反応して動く。そこだけ取り出すと、まるで原始生物のふるまいのように見えます。ただ、もう一歩進めて考えてみると、そういうふるまいとは裏腹に、なにか以前よりもゆっくり大切にできるようになったものがあるんじゃないかとも思うんですね」
『yPad moss』のそこかしこに描かれているMoss manたちは、ただただ、苔を育てているのだという。
「スマホを持って情報テクノロジーにも通じている。それどころか、雨や風をも操れるほどの能力を手にしながら、育ててるのは“苔”なんです(笑)。その、そこはかとないばかばかしさというか、行きどころのない滑稽さみたいなものが、僕はいいなと思っています。世界を鮮やかに彩るとか、食物連鎖を健全に保つとか、そういう方向性から根本的に脱線してる世界が苔にはあると思うんですよね。彼らの技術を駆使すれば、たぶんとんでもないことができるんです。でも、だからこそ苔の世界を手放さない。そういう存在としてMoss manを想像しました」
Moss manたちは、“苔”を育てるプロセスを通して、yPadの使い方も教えてくれる。しかしなぜ“苔”なのか?
「苔は、日当たりが良すぎても生えないし、日照がなくてもダメ。適度に涼やかで水がたっぷりないと生えない。苔って放っておいても生えるけど、育てようとするとけっこう難しいんですよね。Moss manは日向も日陰も好き。要は居られるところに居たいんです」