プロ野球2022年シーズンの開幕も間近。FAなどで他球団に移籍した選手が、古巣相手の試合で、元本拠地のファンから「裏切者!」とばかりにブーイングの洗礼を受けるのも、この時期だ。
「カープが大好き」と公言していたのに、地元ファンの残留要請を振り切る形で阪神にFA移籍したことから、「可愛さ余って憎さ百倍」的憎悪を一身に受けたのが、2008年の新井貴浩だ。
同年4月1日、広島市民球場での広島戦、1回表1死一塁で阪神の新4番・新井が打席に立つと、スタンドから一斉にブーイングが起こり、グラウンドには、新井のカープ時代のユニホームのレプリカが投げ込まれた。
「ブーイング?聞こえてました。でも、それはしょうがないこと。厳しい現実ですから」とすべてを素直に受け止めた新井は、想定を遥かに上回る怒声と罵声の激しさにもかかわらず、「本当にごめんなさい」という気持ちしかなかったという。
なかなかブーイングが収まらないなか、「目の前の試合に集中していた」新井は四球で出塁。直後、金本知憲が左越えに先制3ランを放つ。5年前に新井同様、広島から阪神にFA移籍した金本の一発を翌日のスポーツ紙は“お黙り弾”と報じたが、生え抜きの主力がライバル球団に次々に引き抜かれ、そのたびにやりきれない思いにさせられたファンが、文句のひとつやふたつ言いたくなる気持ちもわかる。
だが、15年3月27日の開幕戦(ヤクルト戦)で、2点を追う7回2死一、二塁、7年ぶりに広島に復帰した新井が代打で登場すると、マツダスタジアムの鯉党は割れんばかりの大歓声で出迎えた。「グッとこみ上げるものがあった」とスイッチが入った新井は、この日の感動を心の糧に4年間現役を続け、チームの3連覇に貢献した。
日本球界復帰に際し、かつての在籍チームを袖にしてライバル球団のユニホームを着たことから、逆風を受ける羽目になったのが、中島裕之(現宏之)だ。
14年オフ、メジャーで1試合も出場できないままアスレチックスを退団した中島に、古巣・西武がいち早くラブコールを贈った。ところが、中島が最終的に選んだのは、よりによって西武時代に死球をめぐって乱闘寸前の騒ぎを起こし、「しょうもないチーム」と自ら非難したオリックスだった。当然西武ファンは納得がいかない。