核共有論に火を付けた安倍晋三元首相
核共有論に火を付けた安倍晋三元首相
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 ロシアのウクライナ侵攻が始まり、中国の台湾に向けた動き方がクローズアップされると、日本でも安全保障についての議論がさかんになってきた。メディアでは、敵のミサイル発射拠点などを叩く「敵基地攻撃能力」が取りあげられることが多いが、実際には宇宙防衛やサイバー戦など幅広く検討されている。

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 そんな中、2月27日、フジテレビの報道番組に出演した安倍晋三元首相の発言が物議をかもした。NATO加盟国の一部が採用している核共有(核シェアリング)に触れ、「議論していくことをタブー視してはならない」と言ったからだ。

 核共有とは、米国の核兵器を同盟国が共有し、核抑止力の向上につなげる政策である。現在、ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、トルコの5カ国に配備されている。

 自民党最大派閥の清和会(現・安倍派)会長の踏み込んだ発言に、党の反応は早かった。安倍氏の意向を受けた高市早苗政調会長は、党の安全保障調査会に核共有の是非についての調査を指示。3月16日に核共有政策に詳しい専門家を呼んで勉強会が開かれた。

 ところが、その結果は意外なものだった。安保調査会幹事長代理で、国防部会長も務める宮沢博行衆院議員は言う。

「調査会では、NATOが核共有政策を採用した背景や実際の運用方法について話を聞き、日本で適用できるかを検討しました。その結果、核共有はむしろ日本の安全保障環境を悪化させ、デメリットのほうが大きいという雰囲気になった。会には30~40人の国会議員が出席していましたが、核共有を推進しようと言う議員は一人もいませんでした。今後、党でも政府でも、核共有を議論することはありません」

 党内最大の実力者であるはずの安倍氏の提案は、あっさりと消えた。だが、毎日新聞の世論調査では、核共有について「議論すべきだ」という人が57%にのぼり、「議論すべきではない」の32%を上回っている。会に出席した自民党中堅議員は、こう切り捨てた。

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